第227回
Punkは現在進行形の巻


不思議ですね、パンクが続いているだなんて。

パンクが出てきた時、”一年続かないよ”って言われていたんですけどね。
なぜパンクが続いているのかって?
単なるファッションじゃなく、考え方だからでしょう。

“自分自身でやっちまえ”という。

だから、音楽的には雑多で、高速のロックンロールもあれば、ノイズもある。

既成の楽器だけではなく、自分で作ったもので表現することも容認される。

ルールは一つだけ、”何かをやりたい”と思う気持ち。

音楽表現だけがパンクではないから、文章を書くことも造形することだって範疇だ。
だからこそ、独自性を求められる。

同じようなものは、要らないのだ。


”今、イギリスでパンクはあるのか?”って聞かれたら、”あるよ”って明快に答えることができる。

DIYで活動するシーンが、メジャーなシーンとは全く別の形で進行している。

100人も入ればいっぱいになるような日本のライブハウスよりも簡素なライブ会場に行くと、パンクが結構たくさんいる。

パブの奥にある部屋や2階にあるような会場で繰り広げられるライブは、”なんで?”と思わせるようなバンドに出会うことが多々ある。

頭の中をリフレッシュしてくれる一筋縄ではいかないような、”パンク”な表現をする。

所謂Post Punkであり、Post Hardcoreな連中は、メジャーな情報網とは全く別のところにいる。
だから、”Alternative”な存在として、或る日突然メインストリームに躍り出てくることもある。


2013年に渡英した際、本当に偶然ライブを見た”SLAVES”は、まさに主流とは別の存在なのに、今やイギリスを代表する”パンク”だ。

初めて見たのは、ウルトラ・メジャーなロック・フェスティバル『Reading Festival』の通り道でやっている、ゲリラ・ライブ的な”BBC Introducing”というステージ。

疲れたから、ライブの間に軽食を買って草むらの上で座って食べていたら、目の前の小さなステージでいきなり爆音でライブ。
二人でやっているガチャガチャしたうるさいパンクな音は、衝動でやっているとしか思えないような、荒々しく素敵なもの。

いかにも、ちょっと田舎のガレージ・バンド(ロンドンではなくケント出身)ならではの、ゴツゴツした迫力も持ち備えている。
スネアとフロアータムを叩きながら歌う、ちょっと小太りな Isaac Holman と刺青だらけのギターリスト Laurie Vincent の二人は、全身から何かを発信している。
ステージ前を通りがかる人たちが、立ち止まり踊りだす。

しまいにはダイビングする人まで現れた。

この日から、”SLAVES”は気になる存在となった。

日本に帰ってきて少ししたら、BBCのネットで彼らのスタジオ・セッションが上がっていてびっくり。
インターネットに感謝。


2015年6月に、気合を入れてライブを見ることができた。
主催は、イギリス・インディーの老舗、Banquet Records。
そう、あのThe Lurkersを世に出したレコード店だ。

かつては、ロンドンのフルハムに店舗があったのだが、現在はロンドン近郊のキングストン・アポン・テムズに移転している。
場所は、普段はディスコのヒッポドロームという会場。

夜の9時開場なので、チケットに
”18歳以上。身分証明できるものを持ってきてください”
と書いてあった。

面倒臭いけどパスポートを持って行ったら、いかにも近所に住んでいる女の子もパスポートを持ってきていた。

もっとも、私は見た目でなんのチェックもなく入れたけどね。

会場に入ると、渋谷のクアトロより少し大きくて、恵比寿のリキッドルームよりちょっと小さい感じ。
最前列には、若者に混じって年配のパンクファンもチラホラ。

あまり面白くない地元のバンドが終わったら、いきなり若い男の子がステージ前に集まってくる。
ステージ前の真ん中のあたりは大混雑の様相に。

隣に押し詰めてきた3人組の男の子は”今日は、クラウドサーフィンするから手伝ってね”なんて、屈託無く話しかけてくる。

他の男の子も同様に、”ローリーに今持っている旗を渡すんだ”と、いかにも嬉しそう。

DJがDrengeの曲をかけて、場内は大合唱のお祭り騒ぎ。
ライブ前なのに、ステージ前は”押しくらまんじゅう”が始まった。
こうなると、バンドを呼び出すコールが自然に始まり、会場が暗くなった。

一曲目は、意表を突いてアコースティックな「Are You Satisfied ?」。
周りの子供達は、大合唱開始。

続いて「Ninety Nine」。
ここからは、”今、1970年代のパンクの会場にいるのか?”と思わせるような、カオスな雰囲気に。
頭の上からビールが降ってくるは、ビール瓶がステージ目掛けて飛び交うは、後ろから人は飛んでくるは(ダイブじゃなくてタックルね)、旗が落ちてくるは、大混乱。

イメージ的には、1980年頃の”スターリン”のライブを思い起こしてくれればいいのかな。
爆竹は無かったけど。

勢いのある曲が3曲くらい続いたところで、ヒット曲「Cheer Up London」が始まる。

もう、後ろからの押圧が半端じゃない。
目の前の警備員が後ろの奴等に”下がれ”の合図を出しているけど、波のようにすぐにまた押圧される。
こうなったら、最前列の人は柵を使ってポゴするしかないよね。
そう思ったと同時に、一斉に会場中がポゴの嵐。

よく、知ったかぶりして”イギリスに行っても、ポゴする人はいないよ”なんて言う人がいるけど、パンクのライブでは、ポゴは健在。
10代のガキたちが、身体をぶつけるように思いっきり飛び跳ねている。

スラムダンスじゃなくて、ポゴ。
いかにもイギリスらしい。

「Feed The Mantaray」では、ステージ横で箱の上に座っていたスタッフが、”エイ”の被り物を着て、ステージ狭しと暴れまわり客席にダイブ!良い仕事してくれます。

こうなると、ステージとフロアーの勢いがもう止まらない。

最後の曲「Hey」まで一気呵成っていう感じ。

Isaacが客席にダイブすると、Laurieも”俺も飛び込むぜ”と言わんばかりに、すぐにダイブ。
ステージ上は、空っぽ。
ステージ前は大賑わい。
お調子者が、後ろからクラウドサーフ開始。
会場内はループで鳴っているギターの音が”グワン・グワン”とビートを刻んでいる。
ステージに二人が戻り、再び演奏を始めたら、すぐに終了。


アンコールは、もちろん無し。
時計を見ると11時。


慌てて、キングストンの駅に向かう。
終電になんとか間に合いそうだな。

11時半の終電に乗って席についたら、先ほどまでステージで暴れていたLaurieが目の前の席に着席するではないか。

”えっ!普通に電車で帰るわけ?”

フレッドペリーのスポーツバッグを持った、いかにも仕事帰りの普通の若者に戻っている。
電車の中で、乗り換えの路線を調べているんだから。
同じライブ帰りの人も、話しかけて良いものか迷っている。

終着のウォータールー駅に着いたら、慌ててLaurieに話しかける人がいたけど、”悪いね、乗り換えがあるから”と言って、早足に行ってしまった。


この強烈な、イギリスっぽいライブを体験して日本に帰国したら、”サマーソニック”にSLAVESの名前が。

もちろん、日本でも見ました。

残念なことに、”エイ”は出現しなかったけど、友達に通訳してもらって、歌詞の説明があったり、パンク精神全開のライブはあくまでDIYに基づいているかのようだ。
間抜けな歌詞に反応する、周りにいた英語を母国語とする人の盛り上がりは面白かった。


今年も、また”サマーソニック”に出演するために日本に来るけど、彼らはできることならライブハウスで見たいな。
なんたって、DIYなパンク精神を強烈にアピールするそのステージングは、息遣いが伝わってくるようなところだと魅力と迫力が増すから。

あまり多くを望むと、”贅沢は敵”って言う声が聞こえてきそうだな。
じゃあね。

2016/8/3

 

 

・・・・・・・原爆のライブ予定・・・・・・・


8月27日(土)東京 新宿 アンチノック
『消毒GIG Vol.162』
共:GAUZE
開場 17:00 /開演18:00
前売り 1,200円 当日1,200円(別途ドリンク代) 
■問合せ:アンチノック

9月19日(日)名古屋 今池まつり
ウルトラ・バッド・ギグ
共:タートル・アイランド、バレーボールズ
午後16時頃から無料のライブですよ。 


10月1日(土)名古屋 ダイヤモンド・ホール
Echos 2016
共:Hawaiian6、DEEPSLAUGHTER、Dub 4 Reason、dustbox、kamomekamome、他
開場 12:00 /開演13:00
前売り 3,500円(別途ドリンク代) 


10月9日(日)広島 Live Space 4.14(広島市中区) 
DISK SHOP MISERY&DUMB RECORDS Presents!!
The GENBAKU ONANIES in HIROSHIMA!!

共:ミミレミミ(Fukuoka)、ORIGIN OF M、JAILBIRD Y
SO-CHO PISTONS
DJ'S/Yanshinista!,鉄太,Yui
Open 17:30 Start 18:00
ADV 2,500yen Day 3,000yen(+1drink)
学割 1,000yen(+1drink)