第281回
若き魂の反逆児を求めて の巻


ここのところ何回も伏線を張ってきたが、今回は本題に入ろう。

我が人生における最高のレコードについて。

普通ならば、ベスト10とか言ってカウントダウンするもんだろうけど、1位があるから10位があるわけで、それなら一番好きなものから書いた方が楽しいと思う。


Dexys Midnight Runners / Searching For The Young Soul Rebels


1980年7月17日にイギリスでリリースされたアルバム。
(George Gimarc の ”Post Punk Diary 1980-1982” によれば、同日のリリースに Joy Divisin『Closer』があった。)

手に入れたのは同年8月9日。
地元豊田市のレコード店で、日本盤より先に東芝がイギリス直輸入盤を販売していた。

当時の感覚では、”イギリスで発売されたものをすぐに入手できた” と興奮していた。
シングル「Geno」が、5月にイギリスのチャートでトップになったので、このような販売になったのかな。


なぜこのアルバムが一番好きなのか。


理由のひとつは、1980年3月1日にライブを観たから。


アルバムも出ていないバンドが、ロンドンはカムデンにあるエレクトリック・ボールルームでヘッドライナーのライブをやった。
正直、どのようなバンドなのか知らなかった。
バンドの名前は、イギリス音楽紙の2トーン・ツアーの広告で見ていたけど、Specials や Madness、Selector の下に付録のように載っていたので、”まあ、その手のバンドだろう”程度の認識。
てっきり、スカ・モッド系のバンドと思っていた。

ロンドン市内に、このバンドのポスターが貼ってあり、行ってみようと思った。


前日、Wire と D.A.F の壮絶なライブを観たのと同じ会場に着くと、昨日とは打って変わって明らかにガラの悪い連中が地下鉄カムデン駅前から混み合っている。

スキンヘッズ、ルードボーイズ、パンクスが5対4対1くらいの割合で緊迫している。

会場に入ると、スキンヘッズがやたらと絡んでくるので、パンクスの方へ避難。
そうこうしているうちに The Nips がスタート。
のちに The Pogues を結成する Shene MacGowan がやっていたバンドで、バンド名を The Nipple Electors から変更したこともあり、モッズ系のバンドとして知っていた。

1960年代のバンドThe Creationのカバーを演奏したので、なんとなく嬉しかった。

その時は、”Dexys もこんなバンドだったら良いのになあ” とぼんやりと思っていた。

次は「プリーズ・ミスター・ポストメン」のヒットで知られている、アメリカのThe Marvelettes。
4人組ではなく3人組になっていて、MCで ”アメリカでテレビ番組で活動している” と言っていたが、昔の名前で出ています感が強く、あまり面白くなかったが、モータウンのヒット曲を次々とやるので、スキンヘッズは大喝采。
The Marvelettes が終わって、ノーザンソウルのDJタイムに突入。
会場が”舞踏場”だけあって、ダンスフロアーになって行く。

30分近いDJタイムが終わり、いよいよ Dexy’s の登場だ。

スキンズとルーディーズが一気に緊張感を増して行く。


皮のジャケットを着たメンバーがステージ上から、会場を威嚇しながらゾロゾロと出てくる。
”いったい何人いるんだ” と思わずにいられないほど。
結局8人が出てきて、いきなり猛スピードの曲でスタート。

サックスの二人が右から左へとステージ狭しと暴れまくる。
ギターを持った二人、ベースも前後左右に激しく動き回る。
背の高いトロンボーンは仁王立ちでフロアーを睨みつける。
ドラムとキーボードは動くことができないが気迫は伝わってくる。

当時、一番速い曲をやるバンドと思っていた、UK SUBS の倍速くらいの感じで繰り出されるDexy’s Midnight Runners のウルトラスピードのビートに完全にノックアウトされた。

客席(ボールルームだからイスは無い)は、一気にヒートアップして混沌とした状態。
パンクのライブでおなじみのポゴではなく、今なら分かっているけど、知らないようなステップを踏んでいる。
このスピードならば、飛び跳ねるポゴじゃあタイミングが合わないから。


ここからの35分間、覚えていることといえば会場内でスキンズとルーディーズで喧嘩が始まった時のこと。
ヴォーカルが、やっていた曲を止めて ”てめえら、こんなところで喧嘩してんじゃねえ!お互いを尊敬する態度が必要だろ” と説教を始めた。
結構長く感じた説教の後に、オーティス・レディングの「リスペクト」を演奏。
一気に融和するスキンズとルーディーズ。
ギターの奴は、弦が切れてもお構い無し。
終いには、なんと弦が2本になっている。


アンコールで再登場して ”やる曲ないから” と言った途端に、ライブ開始の ”あの曲” をまたもや猛スピードで。
この時は、踊り方が分かっていたのでフロアーで輩たちと一緒に暴れていた。
電光石火の勢いで場内を熱くして、あっという間に終演。


会場を出ようとすると、高揚したスキンズが ”どこかでもうひと暴れしようぜ” と大きな声でわめいている。
危ないんで、そそくさと地下鉄の駅に向かい帰路に着いた。


なんでこんなに詳しく覚えているかといえば、部屋に着いてからしっかりメモを取ったから。


翌日、Rough Trade に行って、シングル「Dance Stance」を求めたら、”最後の一枚だ”と告げられた。


このようにして出会ったバンド、Dexys Midnight Runners のファーストアルバム『Searching For The Young Soul Rebels』。
聴く前から、過大な期待をしていた。

何しろ、アルバムジャケットが良い!

荷物を抱え、途方に暮れた表情の少年。
周りの人たちも困惑に満ちている(1969年ベルファストで、居住区を追われる人々の写真)。
まさにパンクそのもののイメージだ。

レコードに針を落とした瞬間、ラジオの音で Deep Purple「Smoke On the Water」〜Sex Pistols「Holidays In The Sun」〜Specials「Rat Race」と続く。
いきなり ”ジミー、ダメだ、やってられない、燃やしちまえ” の掛け声と同時に曲が始まる。

シングル曲だった「Dance Stance」を改名した「Burn It Down」。

シングル盤よりもライブで観たスピードに近い。
ここで、このレコードの価値が決定。
Sex Pistols、The Clash、The Damnedのファーストアルバムと同格だ。


このアルバムの面白さは、Roxy Music や David Bowie と同じく、白人の男性が黒人の音楽に憧れて、それを欧州的なフィルターを通して表現したところにある。

The Rolling Stones よりも、The Beatles的なところ。

あくまでも”白い”。

B面のトップに入っているノーザンソウルのカバー「Seven Days Too Long」は、原曲を後に知ったが、まるで Roxy Music を焼き直したかのようだ。


なぜこのアルバムが一番なのか。


まず、タメもなくウネリもなく、パンクそのものの つんのめるような硬直したリズム。
パンク以前のロックで評価対象の ”腰を振れるノリ” は感じられない。
ドラムスのハイハットは硬質でPiLと同じような音をしている。

次に、まったく弾けないブラスセクション。
英国をイメージするときに ”霧の” という形容詞が使われるように、湿っているのだ。
ギターでなくブラスで表現したところが独特だ。

最大の強みは、ヴォーカル。
ビブラートを効かせたその声。
オーティス・レディング、ウイルソン・ピケット、アル・グリーンのような、魂を感じるような声ではなく、人工的に考え抜いたかのような歌い方。

それは、Talking Headsのファーストシングルを初めて聞いたときに感じた違和感と同じものだ。

ロックが貪欲に取り込んできた黒人音楽を模しているにも関わらず、同じようで全く異なるものをこのアルバムは提示している。

パンクに幻滅した連中(ヴォーカルとギターは元The Killjoys) が作り直したバンドは、パンク熱にうなされた後に、本質的な部分で最もパンクの精神に忠実な、非ロックンロールを体現している。
Devo まではいっていないが、Subway Sect と同じレベル。


パンクを初めて知ったとき、既成の概念を疑うバンドの存在を知った。

RAMONES も Television も Blondie も同じレベルで聴いていた。
イギリスから Sex Pistols をはじめたくさんのバンドが出現し、その波は、一気に大きくなっていった。

1年後には、流行りのパンクは死んでしまい、何も残っていない荒涼とした状態だった。

そんな時、PiLがパンク以降を見せつけた。
このときに初めて、”パンクが意味しているもの” が解った。

それは、何事にも囚われず自由な発想を持つこと。

Dexys のアルバムは、”なんでもあり” のパンクそのものを体現している。
一番近いアルバムは、
Throbbing Gristle 『20 Jazz Funk Greats』
PiL 『Flowers Of Romance』
 だと思う。


Dexys Midnight Runners はこのアルバ ム発売以降、メディアのインタビューを受けない替わりに、意見広告を音楽紙に乗せるという態度に出た。

まさに、パンクそのもの。

でも、直後にバンドは空中分解してしまう。
ヴォーカルの kevin Rowland が建て直したバンドは、イメージをフィドルとバンジョーを加えた牧歌的な ”ケルティック・ソウル・ブラザー” に一新し、「Come On Eileen」 の世界的なヒット(英米で1位)で多くの人の記憶に残っている。


おそらく、私の大好きな Dexys Midnight Runners は、1976年の Sex Pistols や 1977年の The Clash を観た人が語り継いでいる ”衝撃” と同じものに出会えたからだろう。
当時、日本で Friction を観た人が受けた衝撃も同じだと思う。


”既成の概念をぶち壊してやる。手段は選ばない。”
だから、パンクは美しい。


じゃあね。

2021/10/25

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