渡辺正 連載コラム #33

フジヤマで売ってないレコードたち。


the residents/the third reich'n roll ( ralph/LP)

ふざけたレコードである。

ある事柄への批評〜批判表現を担う時に「皮肉」は有効な手段の一つだが、極端に突き進むには勇気がいる。インテリの場合はなおさらだ。あざとくなってしまうのが常というのを知っているから。

その点、子供じみた、成長や成熟といったものとは無縁の純粋なアホは楽だ。自分が良ければ、自分が楽しければ、見境なくいける。どこへ行こうとしてるのか、も考えない。これはこれで素晴らしいが、いささかマニアックに過ぎるから、人はその行為を自己満足と呼んで片付けてしまう。

レジデンツはそんなアホには思えないふしがあるからやっかいだ。

今でこそ香り高い(?)インテリミュージックを奏でているが、この頃のチンケな音作りはわざとらしくて、そこがいい。普通わざとらしくて、そこがダメなのだが、そこがいいんだから困ったもんだ。自己満足に陥っていない。特にこの作品には驚かされた。こんなもんでもいいんだ....の見事なチンケ美。

フライング・リザースやディーボもちょっとしたチンケ美だが、レジデンツはもっと手が込んでいて巧妙。

聴きこんでいくと、ナチ批判でもなんでもない聴こえ方がしてくる。メッセージの外側は批判に見えるが、実は単なる音楽美に対する自己表現の発露に過ぎない事と思わせる。B面のポップヒットパレードに大笑いしながらも、それが極上のロックミュージックに見えてくるのだ。これは凄い。

誰しもやりたいと思っているが、それをやってしまうとある種ヘタウマの烙印を貼られてしまう事への恐れに躊躇するのだ。誰しもスターになりたいから。

レジデンツは綿密にやってしまった、しかもなるべく安易そうに見せつつ完成させているあたり、実にインテリ。使い捨て音楽を利用した立派なゴミ音楽。

10数年前にライブを経験したが、実にチンケな、おまぬけショウで、これも気にいった。

恐怖と笑いのさむ〜い合体。

今の音楽でこんな変化球バンドが見当たらないのが残念です。

2002/3/28


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