第219回
”最近好きなバンドの巻”
この国はいつから鎖国してしまったんだって、最近思うことしきり。
街中で世界の音楽情報を入手しようとしても、目に飛び込んでこない。
日本のレコード店が壊滅状態なのは承知しているんだけど、情報だけはインターネットの発達により入手できる。
音楽だって、band campやsound cloudで世界中の先進的なものを聴くことがいとも簡単にできる。
なんたって、自宅にいながら世界中の最新の音楽を知ることができる。
私のように、東京に住んでいない者にとっては、現在の状況はかなりプラスになっていることだけは確かだ。
ただ、”実際に発売された物”を手に入れようとするとこれが結構難しい。
音楽を手に入れるだけならば、ダウンロードで済ますことができるのだが、アートワークを含め細部情報を知りたい、昔ながらの音楽ファンとしては、”物”が欲しいわけ。
幸い、物が欲しければ、名古屋まで出かければなんとかなる。
最近書いているように、名古屋は新譜を置いているレコード店が元気だからね。
だけど、名古屋地区に住んでいない人は結構難しいよね。
地方のレコード店なんて、ほとんど無いから。
前置きが長くなってしまった。
今回は、今年新譜で知った、格好良い海外のバンドのことを書こうと思っている。
気分としては、”南蛮の知らせ”といったところ。
今年一番の衝撃、SAUNA YOUTH。
えっ、なにを今更って思うでしょ。
間違えないでください、Sonic Youthじゃないんです。
SAUNA YOUTHです。
このバンドを知ったきっかけは、インターネットラジオでBBC6 Musicを聞いていた時に、「Transmitters」という曲が流れてきたこと。
”ソーナ・ユースでした”って言うから、当然”ソニック・ユース”の曲なんだと思ったけど、”こんな曲知らないなあ”と思って、曲目リストを見たら、”サウナ・ユース”って言う全く違うバンドだった。
ここで、インターネット時代の利便性を活用して調査。
イギリスのブライトン(「さらば青春の光」でおなじみの町だね)で2009年に結成。
現在は、メンバーチェンジしてロンドンをベースに活動する4人組。
うん、簡単にバンドのことが分かった。
2012年にファーストアルバム『Dreamlands』を出していて、セカンドアルバム『Distractions』を今年リリースする。
なにが格好良いかって、パンク・ロックなんです。
単純に。
日本でいうところのパンク・ロックではなく、いわゆるポスト・パンクやポスト・ハードコア・パンクの音。
疾走感たるやRAMONESを初めて聴いた時に味わった痛快なもの。
その上、なんとも形容しがたいトゲトゲしさはWIREのよう。
さらに、BUZZCOCKSやELASTICAのようなイギリスのバンドならではのポップさも持ち合わせている。
気に入ったら、バンドを見てみたいと思うのが心情。
いやはや、インターネットは便利。
バンドの動く姿を発見。
”うん、やっぱり思っていた通りの格好よさ”。
でも、実際この目で動く姿を見てみたい。
”エーイ、イギリスに行っちゃえ”って簡単に思うけど、ライブやるのかなあ?。
ここから、このバンドとの幸運な出会いを神様が仕組んでいるのではないかと思わせるような展開が。
実は、今年の6月にイギリスに行くことを決めていたんですね。
目的は、最近イギリスのバンドが全く名古屋でライブをやらないから、大阪や東京に行くお金を貯めて現地でライブを見ようと。
年5回東京に新幹線で行くつもりで考えると、イギリスに行った方が安上がりなわけ。
イギリスに行っても、全くバンドを見ることができない時期もあるから、フェスティバル・シーズンが狙い目。
テントを張るのは面倒だから、都市型のフェスティバルをターゲットにすると、ロンドン市内で行われる”FIELD DAY”が6月上旬にあった。
ヘッドライナーはRIDEやPatti Smithといったところだけど、他の出演バンドは、Savages・Django Django・Spector・Eagulls・Hookworms等、気になるバンドがいっぱい。
アメリカのバンドも、Mac Demalco・Diiv・Ducktails・Viet Congが決まっていた。
で、SAUNA YOTHなんだけど、このような大規模なフェスティバルに出演するようなバンドじゃないので、見ることができればラッキーと思っていたら、フェス前日に”アルバム・リリースパーティ”があることが判明。
しかもロンドンで。
ここでも、インターネットをフル活用。
チケットを早速購入。
場所は? ”The Old Bath”
知らないよ、そんなライブ・ヴェニュー。
調べると、ロンドン東の行ったこともないような地域。
”やばいエリア”の近くじゃないか。
Hackney Wick駅から夜歩くのはごめんだな。
バスで行けるのか?
バス停の前だ。これで一安心。
ライブ会場のThe Old Bathは、地域の公民館みたいな場所だった。
裏にフットボール・グラウンドがあり、到着した時には、チームが練習をしていた。
また、横にはピザの店舗もあった。
会場内も体育館というか集会所のような雰囲気。
PAも見慣れたサイズではなく小ぶりなもの。
サポートも個性的なバンドばかりだった。
Rattleはノッティンガムのドラム2名の女性デュオで、This Heatのよう。
続いて登場した女性4名のPrimetimeは、ごく初期のSlitsやRaincoatsを思い出させる。
”既製概念の枠に捕らわれず、自由な発想に基づいた表現こそ、パンクの原点だ。
”
そんなことを考えていたら、SAUNA YOUTHのメンバー3人がステージ上に登場。
しかし、何か変だと思ったら、ノートを持った子供がステージに上がってきた。
特別ゲストとして直前にアナウンスしたRichard Rock’N’Rollっていうのは、この子供のことだった。
SAUNA YOUTHのメンバーの演奏に合わせて、自作の詩を朗読。
The Modern Loversのようなシンプルな演奏に、調子外れな声が乗っかると、ポストパンクになっちゃうから不思議。
バックは合わせるの大変そうだったけでね。
遂に、SAUNA YOUTHの登場。
ガタイの良いRichard Phoenix (drums, vocals)、ヒョッロとしたLindsay Corstorphine (guitar)、メガネをかけた紅一点 Jen Calleja (vocals, sampler) に 髭を蓄えたChristopher Murphy (bass)という極めてシンプルな編成。
いきなりサウンドチェックのようなノイズに続いて「Transmitters」がスタート。
その後はノンストップで、まるでRAMONESみたいに、約30分のライブは瞬く間に終了。
MCで”アルバム全曲の最後の曲です”と言っていたので、この日のライブはアルバム『Distractions』全曲を一気にやったと思う。
SAUNA YOUTHが注目のバンドなのは、この日会場に来ていた”いかにも業界人”なオヤジの多さからも推し計ることができたけど、若いインディーファンも多く押しかけていた。
ライブ終了後に周りを見渡したら、500人は入る会場がパンパンだった。
彼らの魅力は、独特なポップなノイズ感覚にあり、それは70年代にはない今のパンクならではのものだ。
耳に痛いような高音のノイズが、爆発するかのような力強いビートに乗って頭の中に到着する時、そのノイズが心地良いポップなものになっているから不思議だ。
一聴すると、全世界に数多くいるRAMONESフォロワーのように聞こえるが、単なるフォロワーとの違いは、RAMONESのスタイルだけではなくアティチュードをしっかり理解しているとことにある。
先ずはインターネットを駆使して、是非ともSAUNA YOUTHに接して欲しい。
アンチ・ロックとして存在したパンクの原点が詰まった音を聞いて、2000年代初頭にINTERPOLやTHE STROKESで受けた衝撃を再び感じ取って欲しい。
今年、日本を含むんだけど、実に数多くの若い良いバンドの作品を聴くことができた。
それは、意外なほど音楽評論をしている人の耳に届いていないみたい。
ということで、次回も”最近好きなバンド”の事を書こうと思う。
2015/11/24
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