第224回
”見つけた、見た、驚いた” の巻 
 


26年ぶりに、3月中旬に、ほんの少しの期間だけニューヨークに行ってきた。

なんたって、弾丸ツアーだったので、やってみたいことは全部やることができなかったが、ライブだけは観に行くことができた。

ニューヨークっていえば ”CBGB” な世代なんだけど、無くなってから何年も経っていることぐらいは承知なのだ。

それならば、流行りに乗っかって、ブルックリンの最新スポットに行こうと事前にチェックしていたら、なんとニューヨークに行く週は、SxSxW が開催されるので、観てみたいようなバンドはテキサスに行っているじゃないか。

もう、涙涙。

それでも、Baby’s All Rightでは Those Darlins が、Rough Trade で EARTHLESS がやるということがわかって、ちょっと安心。
両方とも、ニューヨークのバンドじゃないところがなんともおかしい。
しかし、せっかくアメリカに行くんだから、アメリカで人気のバンドっていうのも観てみたいなあと、ニューヨークの大きな開場をスケベごころを出して調べてみると、全く知らないバンドが3,000人収容の ”ターミナル5” っていう会場でやるではないか。

なんだ!いったいこのバンド。

それも2日間もやるじゃないか。
しかも、こいつらの前の日は Megadeath や Suicidal じゃないか。


全く知らないこのバンド、調べると実は結構長くやっているバンドで、アルバムもたくさん出していた。
うーん、こちらのチェック漏れだったことが判明。

アメリカの王道を行くようなバンドは、どうしても ”あとで” ていう感じになるので、聞いたことがないバンドが多い。

”Dr.Dog” っていうそのバンド、慌てて音源を購入して聞いてみると、ビートルズにビーチ・ボーイズを足したような、本当に王道のロックバンド。

そのうえ、なんとなく Mercury Rev のようなトチ狂ったサイケデリック感覚もあり、”これはちょっと観たいなあ” と思った。

こういう会場なら、サポートバンドがつくはずだからチェックしたところ、なんと今一番見たいバンドのひとつ”HOP ALONG”の名前が。

こんな偶然があるもんなんですね。

もし、”スケベごころ” を出さなかったら、全く知らずにいたと思うと、この幸運さに感謝っていうところ。


ここで、アメリカで”コンサート”に行くことになって思い出したのが、年齢制限があること。
今回の場合”21歳以上”のライブだ。

同じように年齢制限のあるイギリスは結構ゆるくて、見た目で判断してくれるけどアメリカはIDチェックがかなり厳しいから、年齢証明のできるものを入場時に見せないといけないからパスポートを忘れないようにしないといけない。

まあ、50歳を優に超えているから実際なんの問題もないのだけど。


会場の ”ターミナル5” は、倉庫が並ぶヘルズキッチン地区にあり、ライブがなかったら足を運ぶことはなかったと思うような場所。

しかも、最寄りの地下鉄駅から早足で歩いて15分はかかる。
やっと辿り着いた会場に入る前に、まず念入りなボディー・チェックを体の大きな警備員にされて、次に年齢チェック。

そして、入場。

開場後一時間経った、午後8時過ぎに会場に入ると、1階のフロアーは背の高い人ばかり。

”これじゃあ ステージが見えないよ”、慌てて上をみると2階と3階にまだ空きがある。

速攻で、2階に。

柵前に場所を確保して、ひと安心して場内ををぼんやり眺めていたら、開場が暗くなった。

HOP ALONGの4人が登場。

ステージ左からベースのTyler Long、次にヴォーカル・ギターでこのバンドを始めた張本人Frances Quinlanが。
後ろにFrancesの兄弟のMark Quinlanがドラムで構える。
一番右のちょっと広いスペースにギターのJoe Reinhartが陣取っている。


音が出て、Francesの声が聞こえた途端、瞬時に心を奪われてしまった。

そのパンチ力のある、少ししゃがれた歌声は、ジャニス・ジョップリンを初めて聴いた時と同様の衝撃。

今風の言葉で言うと”エモ”になるんだけど、その表現では全く物足らない。

全身から滲み出てくるような感情の爆発が、一瞬にして、こちらに波動してくる。

このバンドを初めて聴いた時に、Lone Justiceの歌姫マリア・マッキーみたいな感じだなあと、かなり好意的に反応していたのだが、そんなレベルじゃない。

もっと、もっと、桁外れの迫力・インパクトだ。

あえて言うならば、パンクバンドをバックにジャニスが歌っているような感じだ。


サポート・アクトなので、観客は冷ややかな目で見ているのかと、階下のフロアーを見るとステージの左と右で数人がモッシュしている。
後方でも、飛び跳ねている連中がいる。
バー・スペースからフロアーに向かっていく人がかなりいる。

おお、みんな熱心に聞いている。

長身のギターリストJoeは、ステージ右半分を縦横無尽に大きなアクションで動き回る。
ちょっとだけ、Sonic Youthのサーストン・ムーアのような派手な感じ。

あっという間に、フロアーがいっぱいになっている。



HOP ALONGについて少しだけ説明しておかないといけないな。

2004年に、Francesのアコースティック・フォーク・ソロプロジェクトとしてスタート。
当初はHop Along,Queen Ansleisって名乗っていた。
なんでも、フィラデルフィア郊外の田舎の高校に通っていたらしい。

2005年にファーストアルバム『Freshman Year』をエンジニアにLattermanのPhil Dougrasを迎えリリース。
2008年にドラムスでMarkが加わり、同時期にDominic Angelella(セカンド・ギター)とJacki Sulivan(ベース)も参加。

HOP ALONGとしてバンドの形態をとるようになる。

この時期にP.S.Eliot(WaxahatcheeやSwearin’のメンバーがやっていたバンド)と一緒にUSツアーをしている。 

2009年にベースがTylerにチェンジ(Tylerの前にDr.Dogに加入したEric Slickが一時期加わっていた)。
2012年にプロデュースにJoe Reinhartを迎え『Get Disowned』をHot Greenからリリース(後にSaddle Creekから再発される)。
ほぼ同時期にDominic Angelellaが去り、レコーディングを担当したJoeが参加する。
2015年『Painted Shut』をSaddle Creekからリリース。

こんなところが、このバンドの概要になる。

ここで分かって貰えたと思うけど、Girlpoolを紹介した時のSwearin’人脈につながるんですね。

熱心にシーンを追っかけているわけではないけど、点として聴いていたバンドがDIYなパンクシーンで実は繋がりを持っているんです。

この辺りが音楽を聞いていく時の楽しみになっている。



ライブの続きだ。

特に”もうすこしやります”ってアナウンスして始めた、後半の3曲は圧倒的だった。

確か「Texas Funeral」だったと思うんんだけど、Dinosaur Jr.かと思うほどの轟音ギターと畳み掛けるようなリズム隊に、Francesのパンチ力ある歌声が乗っかってくるんだからたまったもんじゃない。

この頃になると、本当にほとんどのお客さんが、見入っていた。
2階席だって、後ろに人だかりができていたくらいだ。
見惚れていたら、あっという間に終わってしまったから、多分アルバム『Painted Shut』の曲を中心に10曲くらいやったと思う。

約40分のライブだった。


面白かったのは、ライブ終了後のメンバーの動き。

日本だったら、ステージスタッフが何人か居て、後片付けをしていくのだが、この大きなステージも関わらず、ステージ袖に引っ込んだメンバーがしばらくすると、ひとりまたひとりとステージに戻ってっくるではないか。

何をするのかなあと見ていると、各々がシールドを片付け始める。

ベースのTylerは大きなベースキャビネットをステージ前の空間に降ろそうとひとりで奮闘している。

思わず”誰か助けてやれよ”って思っていると、二人ぐらい駆け寄って手助け開始。
他のメンバーも自分の楽器とアンプを力一杯振り絞ってステージから下ろしている。
ドラムセットなんて、誰の手助けもなくMarkが一人でバラしている。

スタッフがいないのではなく、自分のことは自分でやるのが当たり前なんだ。

この風景、何となくアメリカのインディーズシーンが持つ、DIYな力強さの一端を垣間見たような気分になった。


メインのDr.Dogも、摩訶不思議なアメリカ的サイケデリックな音楽で楽しめたが、自分がもの凄く見てみたかったHOP ALONGの後では、すこし分が悪い。

本当は、もっとパンク的なSheer MagやSpeedy Otizが見たかったのだが、あまり欲張ってはいけません。

今回は、レコードで聴いているだけでは全くわかることができなかった、HOP ALONGの魅力を肌で感じ取り驚いたんだから、満足ですよ。


他に、今回のニューヨークで驚いたことは、ブルックリン地区に出来たRough Tradeに入ったら、Borisが店内で流れていたことかな。

日本のレコード店に入ったって、Borisが流れているなんていう経験は無いから、嬉しくてその日は1日気分が良かったね。

まあ、完全にお上りさんな弾丸ツアーだったけど、やっぱり現地に行ってライブを見ると、レコードで聴いているだけでは分からない、いろいろな発見ができる。

やっぱり、ライブは良いなあ。 

See You In Pit!

2016/4/22

 

 

・・・・・・・原爆のライブ予定・・・・・・・


5月14日(土)東京 高円寺Show Boat
感乱射
共:MOSQUITO SPIRAL
ANGER FLARES
-DJ-ISHIKAWA(DISK UNION/a.k.a.TIGER HOLE)
開場 18:30 /開演19:00
前売り 3,000円 当日3,500円(別途ドリンク代) 
*TICKET sale ... 3/12〜LAWSON TICKET,e+,ShowBoat
■問合せ:ShowBoat 03-3337-5745/info@showboat.co.jp


5月22日(日)名古屋 今池ハックフィン
Huck Finn 35th Anniversary & Club Upset 10th Anniversary 合同企画
共:The Starbeams、Fox Loco Phantom、ThreeOut、他
開場 17:00 /開演17:30
前売り 2,500円 当日3,000円(別途ドリンク代)