第226回
ハードロック版 Nuggets の巻


かねがね不思議に思っていたこと。

”どうして、ハードロック版 Nuggets は無いんだろう?”

サイケやガレージ・ロックの再発見は進んでいるのは承知の通り。
偶然レコード店で見つけて、個人的に密かに楽しんでいた全く名前を知らないようなバンドが、ある日突然、コレクター垂涎の的になるのを幾度か経験している。

ジャンル的に ”パンク経由で再発見” のものが多い。

ハードロックは、パンク前の ”叩き潰す対象” の音楽だけに、どうしても”再発見”は進まない。
ストーナー・ロックが流行った1990年代後半から、ハードロックの発掘作業は一気に進んだのだが、アルバム単位で評価するため、”一曲” にスポットライトが当たることはあまりなかったような気がする。


どのような背景から、冒頭に書いたことが頭の中に出てきたかのか。

そのことを書いておかないと、先に進めないよね。

2000年を過ぎた頃から、イギリスの”プログレッシブ・ロック系レーベル”の3枚組Boxセットが続々とリリースされた。

まず Decca がロック・ファンの隠れた定番を中心に組み、Vertigo と Island、Harvest や Polydor と続いた。

これらのBoxセットを聞いて、”プログレって結構ハードロックじゃん” と思った。

同時に、イギリスだけじゃなくアメリカにはもっといろんなバンドがいるはずなのにとも。


世の中には、同じように思っている人がいるもので、2015年 アメリカで 『Brown Acid : The First Trip』 というタイトルのコンピレーション・アルバムがリリースされた。


『 Brown Acid : The First Trip 』

サブタイトルは、『Heavy Rock From The American Comedown Era』(アメリカ凋落期のヘヴィーロック)っていう、いかにも”ヒッピー後”を感じるもの。

収録されているバンドで名前を知っていたのは”Josefus”一つだけ。
あとは全く知らないバンドばかり。

なんとも田舎臭く垢抜けない”ハードロック”が次々と11バンド11曲入っている。

冒頭に収められているZekes「Box」は、ジミヘンタイプのギターでかっ飛ばしてくれる。

ちょっとだけサイケの匂いのするSnew「Sunflower」はギターの音がSteppenwolfみたいで、ソリッドな感じがすこぶる良い。

一瞬Cactusみたいな、Teur「One Of The Bad Guys」は、リフの作り方がJohny Winter AndやLed Zeppelinが好きなんだろうなあと思わせるような曲。

Zebra「Wasted」は、ソウルフルなヴォーカルとモダンなSantanaみたいな曲で面白い。
ギターは鳴きまくっている。

インストのBob Geedsite「Faze1」は、ジミヘン?て思わすにいられない。

所謂レトロ・ロックのテイストに溢れているRaw Meat「Stand-By Girl」は、今聞いても違和感のないハードロックで、このアルバム一番の目玉かも。

ニューヨーク出身なのにデトロイト臭がプンプンするバンドPunch「Deathhead」は、GFRやThe Amboy Dukesのような強引さが魅力。
サイケ直後のハードロック感覚がたまらない。

Basshus「Carry My Love」とLenny Deake「Love Eyes」はプロト・パンク的なブギーを展開する。

The Tedd「Mystifying Me」はパワーポップな曲。

そしてアルバム最後に収められたJosefus「Hard Luck」は、このアルバムのなかではメジャーな感じでKissやBrownsviille Stationみたいに聞こえてしまう。


このアルバムに満足していたら、弾みがついたかのように第2弾が2016年4月にリリースされた。


『 Brown Acid : The Second Trip 』


先月書いたように、ゴールデン・ウィークに渡英した際、いつものように Rough Trade の店内に入った途端、いつもなら最新のインディーロックが流れているはずなのに、頭痛がするような”カビの生えたような古臭い”ロックが流れてきた。

何がかかっているのかとレジ横を見ると”梶芽衣子”が目に飛び込んできた。

アルバムのタイトルを見ると 『Brown Acid : The Second Trip』 だった。

アルバムがかかっているということは、Rough Tradeに来るような最先端好きな人にも、どマイナーなハードロックが注目されているのかな。


今回はオーストラリアのAsh(ジャケットではニュージーランドとなっている)が入っているので、サブタイトルは『Heavy Rock From The Classic Comedown Era』に変更。

10バンド10曲が入ったアルバム、敢えて言えばThe First Tripと比べ洗練されたバンドが多くなっている。
とは言っても、敢えて言えばのレベルなので、一般的なレベルでは、相変わらずだ。

このアルバムで唯一知っていたバンド Ash「Midnight Witch」は、いきなりDoom的なストーナーだ。
1970年に南半球でダウナーでヘヴィーな音を出していたのだ。

Sweet Crystal「Warlords」は、Gracious!かと思わせるようなオルガンの音にWishbone Ashのようなギターがかぶさる、ブリティシュな音。

Raving Maniac「Rock And Roll Man」は、Bob Segarかと思うほどイケイケな曲。

Crossfield「Take It!」は、かなりポイントの高いストーナだ。
後半は哀愁を帯びたギターソロに突入する。

Jethro Tullみたいなフルートが入るSpiny Norman「Bell Park Loon」は、幾分モダンなテイストを感じる。

いかにも70年代初頭のハードロックな響きが特徴のGlass Sun「Silence Of The Morning」、ほぼパンクなVolt Rush Band「Love To You」、キーボードの入り方がいかにも70年代なBuck「Long Hot Highway」に続き、Iron Knowledge「Show Stopper」が不気味な音で迫ってくる。

最後はSonny Hugg「Daybreak」がヘヴィーに決める。


『Brown Acid 』シリーズは、スタイリッシュなハードロックとは無縁のゴツゴツとした音ばかりなので、聴き手を選ぶことは間違いない。

多くのハードロック・ファンが好きな、ハイウエイをぶっ飛ばす爽快なスピート感は、ここには無い。
イメージ的には、いくらスピードを出しても30kmがMaxで、椅子が薄いから尻が痛くなるようなトラクターに乗って耕地を突っ走るような感じだ。

他のコンピだと、ノリの良い曲が多かったり、なんとなくサイケの匂いがするんだけど、サイケデリックではない、”ヒッピー後”のなんとも言えない時代だからこそあり得た不思議な陰鬱な空気が、このハードロック版Nuggets に押し込まれている。

2016/6/30

 

 

・・・・・・・原爆のライブ予定・・・・・・・


7月10日(日)名古屋 トクゾー
『新 七夕の夜』
共:S.H.I、DEMOLITION
開場 18:00 /開演 19:00
前売り 2,500円、当日2,800円(別途ドリンク代 500円)




7月17日(日)東京 高円寺Show Boat
ShowBoat 23rd Anniversary
共:Punktronica [nickey(vocal) / tatsu(guitar) / 穴井仁吉(bass) / 東川元則(drums)]
開場 18:30 /開演19:00
前売¥3000/当日¥3500(別途ドリンク代¥600)
■問合せ:ShowBoat 03-3337-5745




7月24日(日)豊田 豊田スタジアム
Toyota Punk Carnival
共:
System Fucker、Organism、Never Again、Not A Name Soldiers、Vivsick他
午前11時スタート(早めの出演予定です)




8月27日(土)東京 新宿 アンチノック
『消毒GIG Vol.162』
共:GAUZE
開場 17:00 /開演18:00
前売り 1,200円 当日1,200円(別途ドリンク代) 
■問合せ:アンチノック