第238回
”ACTION TIME VISION” の巻
2016年12月に1970年代のブリティッシュ・パンクの集大成的なコンピレーションがリリースされた。
誰かが、そのうち騒ぎ出すだろうと思っていたら、完全にスルーされたので今更ながら大騒ぎすることにした。
タイトルは 『 ACTION TIME VISION
』 リリース元はお馴染みCherry Red。
サブタイトルが 「A Story Of Independent UK Punk 1976-1979」
だから、Sex PistolsとThe Clashは入っていない。
それでも、4枚組で111曲入り。
通して聴くと5時間を超える。
これでお腹いっぱいになりそうなくらい、パンクの嵐だ。
ほぼ時系列に曲が入っているので、私のようなリアルタイムで、しかも気がふれたようにマニアックに聴いていた人間にとっては、自分が作ったカセットテープを聞いているような気分になる。
ディスク1は、1976年の記念すべきシングル The Damned 「New Rose」
でスタート。
ここから…
Eater 「Outside View」
The Radiators From Space 「Television Screen」
The Cortinas 「Fascist Dictator」
The Drones 「Lookalike」
The Lurkers 「Shadow」
The Rezillos 「I Can’t Stand My Baby」
999 「I’m Alive」
と1977年のパンクが続く。
この時点で、ポゴをしまくって汗をかいてしまう。
このディスク1に収まった31曲は、今まで聞いたパンク・コンピレーション史上最強の選曲。
なんたって、The Sniveling Shits 「Terminal Stupid」
が入っているんだから。
とはいっても、マニアな私はなぜかメジャーの UA から出たThe Maniacs
「Chelsea77」 が入っていることや、マンチェスターのRabidレコードの3枚のシングルが入っていないことや、スコットランドのZoomレコードも入っていなことに気がついてしまったりするんだけどね。
そして、最大の疑問点は Buzzcocks の 「Spiral Scratch」
から1曲も入っていないこと。
どうしてなんだろう?
ディスク2は、Swell Maps 「Read About Seymour」
で始まりフォークのPatrik Fitzgerald 「Safety-Pin Stuck In My Heart」
から、The Boys 「No Leaders」 に繋がる。
The Boys
は、ついつい突っ込みたくなるような選曲だけど、ディスク2を聴き進んでいくと、どうしてここで、この曲なのかが解ってくる。
パンクは攻撃的だけではなく、ポップな一面を持ち合わせているからだ。
The Motors のようなハーモニーが特徴の The Stoat 「Office Girl」
が次に入っているところなど、パワーポップ的な一面を強調している。
ここから一気にパワーポップに突入かと思わせておいて、Acme Sewage Co.「I Don’t Need You」
で、またパンクに戻すところが憎い。
このディスクは、基本的にはシングルがリリースされた月順に並んでいる。
1978年1月から1978年5月までの27曲だ。
マンチェスターのV2「Speed Freak」、グラムの影響下にあるRaped「Moving Target」、ローファイな’O’Level「Pseudo Punk」といった、パンク・マニア向けのバンドから、のちにビッグネームになる
Tubeway Army 「That’s Too Bad」
Stiff Little Fingers 「Suspect Device」
Skids 「Reasons」
The Menbers 「Solitary Confinement」
Angelic Upstarts 「Murder Of LIddle Towers」
まで、驚くべき濃厚な選曲。
The Pogues で一世を風靡する Shane MacGowan の Nipple Electors 「King Of The Bop」
も入っている。
ディスク3は、このコンピレーションのタイトルになっている
Alternative TV 「Action Time Vision」 でスタート。
今更言うまでもないけど、ヴォーカルのMark Pはパンク・ファンジン
”Sniffin Glue” を始めた人だ。
本来ならばディスク1に入るべきバンドなのに、4枚目のシングルでまさかのディスク3で登場だ。
これ 1977年のところで登場すべきバンドが他にも入っている。
Chelsea 「Urban Kids」 と The Users 「Kicks In Style」 だ。
どうして Chelsea 「Right To Work」 と The Users 「Sick Of You」
が無いんだろうと思っていたら、別の曲で、しかも1978年のところに入っていた。
パンクっていう観点で、Joy Division 「Failures」 が、Billy Bragg
の Riff Raff 「Cosmonaut」、The Dole 「New Wave Love」
に続いて登場してくる。
しかも次の曲は、Leyton Buzzards 「19 And Mad」
と完全にパンク、それもポゴできる曲の並びになっているから面白い。
また、
The Fall 「Psycho Mafis」
The Cravats「Gordon」
Spizzoil「6,000 Crazy」
が、UK Subs 「C.I.D」 や The Ruts 「In A Rut」
といった曲と全く違和感なく入っていて、後追いだと境界線を引いてしまうパンクとポスト・パンクの同時代性を強く感じることができる。
このディスクの最後26曲目は、何故か The Boys の前身バンド、The Hollywood Brats
「Sick On You」 が入っている。
やっぱり、Cherry Red だからかな?
ディスク4は、1979年の27曲。
Adam And The Ants 「Zerox」 でスタート。
Not sensible 「Death To Disco」 から、Zig Zag誌の Kris Needs
のバンド The Vice Creems
「Danger Love」 は The Clash の Mick Jones がプロデュース。
ドラムはTopper Headon、ベースは Generation X のTony James が参加しており、ほぼ
The Clashのようなサウンド。
アメリカから唯一混ざり込んだ Pure Hell 「These Boots Are MadeFor Walking」
は、シングルで聴いている分にはそれほど感じなかったのだが、このコンピレーションの中では異様なほど凶暴な仕上がり。
個人的な記憶では、この年は、2トーンの The Specials や
Madness のスカに出会い、圧倒されていた。
レーベル的な問題からか、ここにはそういったバンドが入っていないから、聴き進むと意外なほどパンク寄りに感じてしまうが、それは1977年とは別の感触だ。
なんて言ったらいいのかなあ、ポゴのスピード感じゃないんだな。
新しいパンク世代の Cockney Rejects 「Flares And Slippers」 と The Newtown Neurotics「Hypocrite」
あたりが、従来のパンクのイメージを踏襲しているが、他はポスト・パンクの色合いが強い。
1978年の夏に PiL が登場して、一気にトレンドが変わったこと、パンクの波の直撃を受けた世代が、パンク思想の
”Do It Yourself” を実践していったことが大きく寄与しているんだろう。
The Licks 「1970’s Have Been Made In Hong Kong」、’Fatal’ Microbes「Violence Grows」、Poison Girls「Under The Doctor」
が、このディスクの最後の3曲。
The Licks はFlux Of Pink Indians の前身、’Fatal’ Microbes は14歳の
Honey Bane が Poison Girls の Vi
の子供達とやっていたバンド。
そしてパンクのメインストリーム化をCrassと共に阻止していた、Poison Girls
がラストだ。
いかにもインディペンデントにこだわった選曲で終わるところに、パンク・スピリットを強く感じてしまうのは、私だけではないだろう。
こうやって、101曲を続けて聴いていると、1970年代のパンク期にタイムスリップしたような感覚に陥ってしまう。
まだ経験をしたことのない人にこそ、この素敵な作品でパンク・スピリットを少しだけ疑似体験してもらえたら嬉しいところだ。
なんで、パンクが爆発的に人気が出て、生き残っているのか、その魅力の一端が伝わると思う。
パンクって本当にいいですね。
2017/8/2
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