第248回
Burning Britain の巻


”ハードコア・パンクっていつから始まったんですか?”

と、昔からの友人に時々訊かれることがある。
一般的には、アメリカのMiddle Classが最初みたいな風潮があるが、彼らは”速いパンク”のスタートであって、”ハードコア・パンク”の最初では無いような気がしている。

速いを基準に考えるならば、日本のSSが最初のハードコア・パンクだって言い切れてしまうからね。

じゃあ、どの辺りでスタートしたのかといえば、パンク第2世代がスタートしたと考えている。

簡単な説明でいけば、パンクを聞いてパンクを始めた世代だ。

個人的な見解では、ポスト・パンクの中の流れとして捉えている。

1976年〜1977年にパンクの洗礼を受けた連中が始めたバンドの中から、パンク精神を純粋に受け継いだ奴らが過激になって行ったと思えば分かりやすいだろう。

この視点で見ていくと、イギリスもアメリカも日本もほぼ同時期の1979年に”ハードコア・パンク”が出現している。


さて、今回は今年5月に発売された”イギリスのハードコア・パンク”の歴史を追ったようなボックスセット『Burning Britain:A Story Of Independent UK Punk 1980 - 1983』の話だ。

タイトルを見ただけで興奮するでしょ!

Chaos UKのEPのタイトルなんだから。
この時点で文句なしだ。

アメリカン・ハードコア・パンクは1990年代の早い時期にRhinoが『Faster & Louder:Hardcore Punk』というタイトルで2枚のCDリリースがあり、いつになったらイギリスのものが出てくるのか楽しみにしていたら、21世紀に入って随分時間が経った今年になって、やっとCherry Redがリリースしてくれた。

以前紹介した、イギリスのインディペンデント・パンクの歴史を追った『Action Time Vision:A Story Of Independent UK Punk 1976 - 1979』の続編にあたる本作は、4枚組で全114曲、全部を聴き通そうとすると5時間を超える。


それでは、4枚をそれぞれ紹介していこう。


先ず1枚目。
80年2月にリリースされたCockney Rejectsの「Bad Man!」でスタートする。
えっ!おかしいじゃん、この曲はウルトラ・メジャーのEMIからのリリースじゃん。
反則だよと思いつつも、頭を殴りつけるようなギターのリフに、体は無条件で反応してしまう。

続くThe Wall、The Toy Dolls、Notsensibles、Poison Girls、Stiffsは、いかにも70年代パンクのスタイルだ。
で、Anti-Pastiが「No Government」で登場。
80年11月のリリースだ。

ここで、遂にパンク第2世代のスタート。
Dischargeの「Decontrol」が続くあたりは、流石!って褒めたい。

個人的な思い出だが、この二つのバンドのシングルを初めて聴いた時、”UK Subsを荒くしたようなバンドが登場したんだ”って強烈な印象を持ったものだ。

この1枚目、29曲入っていて、Dischargeの後は徹底的にハードコア・パンクだ。

Oiムーブメントの4 Skins「One Law For Them」や、オリジナル・パンク世代のChelsea「Evacuate」が違和感なく入っているのは、時代のなせる技か。
28曲目のChaos UKは「Victimised」だ。

イギリスの雑誌のレビューを読んでいたら”なんで「Four Minutes Warning」じゃないんだ!”って書いている人がいた。
本当、同感だよ。

一枚目最後(29曲目)は82年4月リリースのThe Exploited「Alternative」。
UK 82(イギリスのハードコア・パンクを指す)の中でもとびっきり大好きな曲の一つだけに、この曲持って来たら、その場で昇天だ。
79分があっという間に過ぎてしまった。


2枚目も約79分、28曲。
UK Subsが82年3月にリリースした5枚目のアルバムのタイトル曲「Endangered Species」でスタート。
UK Subsの登場は、イギリスのパンクのロック化を顕著に推し進めることになったと考えている。

だから、そのUK Subsの提示した路線をより強化したパンク第2世代バンドの登場は、パンクのメタル化に繋がり、現在のメインストリームのラウド系ロックに影響を与えたと考えている。

このディスクが面白いのは、82年3月から82年8月までの6ヶ月間の記録というところ。

たった半年でディスク1枚分のリリースがあったなんて、いかにイギリスのハードコア・パンクシーンが隆盛を極めていたのかよく分かる。

6曲目の超高速で格好良いSubhumans「Reason For Existence」に続いて、何故かThe Damnedが80年の秋にリリースした『The Black Album』の1曲目に入っていた「Wait For The Blackout」が。

解説を読むと、82年5月にシングル・リリースがあったとのこと、なんか無理やりThe Damnedを入れた感じはするけど、まあ良しとしよう。
12曲目〜14曲目まではコンピレーション・アルバム『Riotous Assembly』から、Lunatic Fringe、Organized Chaos、T.D.Aを選んでいるのは好感が持てる。

聴いていて、何となくRiot CityとNo Futureの作品が多くないかと思って、数えたらこのディスクの12曲がこの二つのレーベルの作品だった。


Blitz「Warriors」で始まる3枚目は、82年8月から83年3月までの29曲、77分。
当時のライブを見にいくとまとわりついてくるガキに必ず言われた”Have You Got 10P ?”をタイトルにしたThe Ejectedが続く。
5曲目にボーカルが替わって再結成したThe Lurkers「Drag you Out」、6曲目はAbrasive WheelsのシングルB面曲「Urban Rebel」をぶち込んでくる。
キャッチーなA面の「Burn ‘Em Down」よりも速くて格好いいから納得だ。
10曲目にはAngelic Upstartsが”Oi”なノリの「Lust For Glory」で登場。
続く11曲目に、遂に我が最愛バンドThe Anti-Nowhere Leagueが82年11月に4枚目のシングルとしてリリースした、必殺の名曲「For You」をぶちかます。

個人的には、1枚目で81年11月リリースの「So What」を入れても良いのではとか、2枚目で82年3月リリースの「I Hate People」もアリなのに、3枚目の中盤でこの曲を持ち出した編集者の心意気を評価したい。

続く曲がThe Vibrators「Dragnet」と、シングルB面曲なのもパンクマニアには嬉しいところ。
17曲目に、怒涛の82年最後の12月リリースのThe Violators「Summer Of 81」っていところが憎い。
18曲目のAd-Nauseam「Crazy World」から83年に突入だ。


4枚目も約79分、28曲。
期間は83年4月から83年12月までだ。

オープニングのメロディックなThe Blood「Megalomania」はアメリカ西海岸のハードコア・パンクバンドが影響を受けたと思わずにいられない。
6曲目に、アナーコ・パンクのOmega Tribe「Freedom Peace & Unity」が入っている。
8曲目には、初めて聴いたときに、もはやポジパンじゃないのって思った、Dead Man’s Shadow「Toleration Street」が。

自分が聞く時にこの二つのバンドを同じ時系列で並んで聞くことはないので、新鮮だ。

13曲目からAnti-System、Mau Maus、The Genocidesと聴き慣れた音に続いて、いきなりD・ボウイのカバー「Suffragette City」が出てくる。
これは、Blitzから分立したRose Of Victory唯一のシングル。

この曲を入れることで、ハードコア・パンクの次のステップを提示しているかのようだ。

かなりポップな19曲目のRed London「Revolution Times」も、次のScreaming Dead「The Angel Of Death」も違和感が無くなってしまう。

とはいうものの、続くのはCrassレコードのコンピレーション『Bullshit Detector 2』に入っていたKronstadt UprisingのEPから「Xenophobia」だし、English Dogs、Conflictとゴリゴリな連中になる。
そして最後は、デモテープのような音で、Criminal Justice「Middle East Mayhem」だ。

もうこれは、狙ったとしか言いようがないパンクな気分になれる。


もう少し違うアプローチもできたはずだが、UK 82をメインに据えたこの編集は、ハードコア・パンクが凶暴なものやD-Beat的なもので評価されがちな今となっては、基本のパンク目線で追っており頼もしい。

うーん、やぱっりパンクっていいですね。

2018/8/10


原爆のライブ予定は

9月17日(祝:月)名古屋 今池まつり
無料 

9月23日(日)東京 EARTHDOM
Ice Pick ’18
共:鐡槌、桜花、壬生狼、AGGROKNUCKLE、CRIKEY CREW、GROWL STRIKE
開場16:00 開演 17:00
前売り2500円 /当日 3000円(入場時にドリンク代金が別途かかります)
■問合せ:EARTHDOM 03-3205-4469


じゃあね、また。