第265回
ライブがいちばんの巻


ロックを好きになったきっかけはなんだろう。

政権による”外出自粛(自粛というよりは強粛だよね)要請”で、あまりにも長い時間自宅にいることが多くなり、レコードやCDを片っ端から聴いてやろうと思ったりしたのだが、1日に集中して聴くことが出来るのは、せいぜいアルバムが1枚か2枚といったところ。

そんな調子だから、自分の持っているレコードやCDの端っこまで聴くことはできていない。


私のLPレコード棚は、買った順に並んでいるので、中学生の頃に毎日聴いていたレコードをすぐに取り出すことが出来る。

その、愛すべきLPを聴きだすと、いろいろなことを思い出してくる。

私がレコードを熱心に聴くようになった1970年は、ザ・ビートルズが解散して、ジミ・ヘンドリックスとジャニス・ジョップリンが相次いで亡くなった年だ。

中学生の子供でも、なんとなくイメージとして、”サイケデリックが終わった”と思っていた。

最初の頃は、シングル盤を買っていたが、一年後から、アルバムを買うことを覚えた。

ROCK NOW や ROCK AGE っていう名称が、タスキ(今の言葉で言うところの帯)に書いてあるレコードが格好良いと判断材料にしていた。 

簡単にあらわせば、東芝とワーナー・パイオニアのレコードを買っていた。
東芝はグランド・ファンク・レイルロード。
ワーナー・パイオニアはレッド・ツェッペリンだ。


そんな時に、なぜかキングから出たレコードを手にしてしまった。

今のように気軽にレコードを購入できるわけではないので、それこそ ”ミュージック・ライフ” を隅から隅までしっかり読んで、何ケ月分もの小遣いをはたいて一大決心をして手にしたレコードだ。

それは、『フリー・”ライヴ”』。

タスキに ”★アニマル・フリーが、絶叫する最後のライヴ・アルバムーサンダーランド・クロイドンでの公演よりー” って書いてある。

今ならば、サンダーランドもクロイドンもそれがイギリスの地名ということが分かるし、それぞれの地域の特性も知っているが、当時はそんなこと全く分からず、ただただ得体の知れない何かを期待して買ったはずだ。

初めて、家でレコードを聴いたときに思ったことは、今でもはっきり覚えている。

”地味じゃん”

しかし、一大決心して手に入れたレコードなので、しつこいぐらい何回も何回も繰り返し聴いているうちに、”格好良い” に変わっていった。

おそらく、我が人生で最もよく聴いたレコードじゃないかと思う。

レコードの溝から出てくる一音一音が頭の中に叩き込まれるほど、何百回も聴いている。

このレコードのジャケットは変形ジャケットで、郵便の封筒のように取り出すようになっている。
これをいちいち開いて、レコードを出すんだから、知らぬ間に愛情がわいてくる。

現在出ているCDは冒頭の音がカットされて、いきなりMCの声でスタートするが、レコード盤に刻まれた会場内の音に想像力を膨らませ心をウキウキさせたもんだ。

”いつかイギリスに行って、コンサートに行くぞ” って、強く思ったものだ。

アルバムの内容は、”1970年代で最も素晴らしいライブアルバムの一枚” と評価が定まっているから、今更付け加えることは何もない。

個人的な印象を細かく書くと、それこそ中学生の読書感想文みたいに支離滅裂なものになりそうなので控えたいが、どういったところが私の心に響いてきたのかを考えてみるとしよう。

まずは、ズッシリと重たいビートにあると思う。

シンプルなのに、これぞロックと言わんばかりのサイモン・カークのドラムの音は、スッキリと整ったアメリカのロックとは違い、衝撃的だった。
そのうえ、アンディ・フレイザーのベースの音は、リズムを刻むのではなく隙間だらけで、出てくる音がひとつひとつ自己主張している。

そしてポール・コゾフのギターは、もう少しで騒音になりそうなギリギリのところで、キュイーン・キュイーンと脳天に突き刺さるようなビブラートを重ねてくる。
何しろ、ガリガリガリっていう感じの響が、しっかり音色として出てくるんだから、”ギターってすごいなあ” と思わずにいられなかった。
こんな桁が違うバックの音をモノともしないポール・ロジャースのヴォーカルにも圧倒された。

なんか、全員がケンカ腰で音をぶつけあって、それを個性として表現している。

こんなことを毎日やっていたら、そりゃあ解散するよ。
妥協しないんだから。


この 『フリー・”ライヴ”』 を手に入れてしまったことで、ごく普通のロック好きがロック大好きに変化していく。


”ロックのレコードってライブ盤がいいね” と思い込んでしまった。


次に ”ブリティッシュ・ロックの変革をくわだてたコラシアム初のライヴ・アルバム” 『コラシアム・ライブ』 を買った。

2枚組のアルバムだから、アルバム2枚買えるような価格に戸惑いながらも、”なにか” を知りたくて決心した。
このアルバムもバンドが解散に向かって突き進んでいく時期のライブなので、フリーと同じくほぼケンカ腰の音のぶつけ合い、凄まじい応報。

そのうえ収拾不能なソロが延々と続く。

しかもクリームの後継者と評されただけあって、ブリティッシュ・ロック界きってのテクニックのあるメンバーが揃っているから、迫力がケタ違いだった。
ヴォーカルのクリス・ファーローなんて、”テメエ、俺の言うこと聞けないのか!” と凄んでいるような、威圧感たっぷりの声を出している。


もう、この2枚のライブアルバムを聞いたことで、(ブリティッシュ・)ロックに対する妄想が極限に達する。

”ロックのライブを観にイギリスに行く”


その夢は、1978年7月に ”90 Wardour Street London W1” にたどり着いたことで、果たすことができた。


はやく、レコードのライブ盤ではなく大音量のライブが見たいなあ。

2020/5/18


   

・・・・・・・原爆のライブ予定・・・・・・・

ライブ情報は、変更があるのでバンドのホームページまで。