第272回
2020年に聴いたもの の巻

2020年は、”ステイホーム”でテレビばかり見ていて、音楽を今までのように熱心に聴いていない。
毎日毎日、感染症のことばかり気にしていた。
日本人の大好きな言葉”100年に一度”の出来事だから。
高齢者特有の”テレビに向かって文句を言う”日々が続いていた。
未来志向で歴史に学ばないことは、果たしてこれからどのように進んでいくんだろう。


家から出ることがほとんど出来ないから、新しい音楽と出会うタイミングがものすごく少なくなった。
だから、持っているけど今まであまり聴いていなかったレコードやCDを聴くことが増えた。
今までならば、鬱憤ばらしのようにラウドでヘヴィーなものを選んでいたと思うけど、微妙な雰囲気があるピーター・グリーンのフリートウッド・マック『ゼン・プレイ・オン』を何度も繰り返し聴いていた。
次によく聴いたのは、Simple Mindsのセカンド『Real To Real Cacophony』とThe Cureのセカンド『Seventeen Seconds』。
ハードコアパンクだと、Soul Asylumの『Made To Be Broken』を始め、ミネアポリスのバンド。
この辺りのバンドを聞くと、心が軽くなるから、重っ苦しいニュースばかり見ていると、ついつい現実逃避だ。


新しいものは全く聴いていないかといえば”NO”で、新譜もそれなりに手に入れて聴いている。


2020年に出たアルバムで好きなものを、いつもの年のように書いておこう。
何しろ好きなバンドの新譜がたくさん出て来たから。


IDLES / Ultra Mono (Partisan)
私がパンクを初めて知ってから40年以上経った今でもなんで好きなのか、その答えを示してくれるバンド、IDLESのサードアルバム。
以前のアルバムと比べると、ミニストリーやナイン・インチ・ネールズみたいなエレクトリックな処理が多いから、かなり重たい印象がある。
しかしながら彼らの持つパンクの本質的なところは以前と全く変わっていないから、ダイレクトに心に伝わってくる作品になっている。
IDLESを聴いた後は、ほとんど衝動的に The Clash の大好きなファーストに手が伸びてしまう。
”早くライブを見ることができるようにならないかなあ”と思わずにいられない、体が動いてしまうようなアルバム。


Fontaines D.C / A HERO’S DEATH (Partisan)
2019年に出たファースト『Dogrel』の衝撃から、間髪入れずに出てきたセカンドアルバム。
音が出てきた瞬間に、”これだよ!”って叫んでしまいそうな、1979年のThe CureやSimple Mindsを彷彿させる空気感に圧倒される。
その上、ちょっとだけ Joy Division や A Certain Ratio の初期感も入っているから、大好物の集まりそのもの。
アメリカのバンドには無い湿りっ気を、2010年代にGirls Names(2019年に解散)やAutobahnといったバンドに期待していた部分を、より良い解釈で表してくれている。
バンド名の D.C はダブリン・シティなので、誤解なきように。


Deftones / Ohms (Reprise)
Deftones がいなければ、今でもパンクやポストパンクだけで、メタルは聴いていないだろうな。
何しろ、メタル特有のうっとうしいギターソロが無いから、メタルの入り口として最適だった。
その上、ヴォーカルの繊細さもプラスに作用している。
今回の作品(通算9枚目)は、初期の彼等やサウンドガーデンでお馴染みのテリー・デイトのプロデュース。
ギターの音をはじめ、最近の3作品ではインディー・ロック寄りな音作りをしていたものが、メリハリの効いた音に変わっている。
重たいけど、ダイナミックさを兼ね備えているところは、バンドの力量をうまく引き出した結果だろう。
個人的には、『Diamond Eyes』(2010年/ 6枚目)と『Koi No Yokan』(2012年/ 7枚目)での変化で彼等を見直し、大好きなバンドの一つであり続けている。
現状維持に満足せず、進歩し続けるバンドの素晴らしさを確認できて、ただただ嬉しい。


MUZZ / MUZZ (Matador)
インターポルのポール・バンクスがやっているプロジェクト。
比較的落ち着いた雰囲気の大人向けのロック。
とはいうものの、音の軋み方は21世紀のロックならではものがあるから、パンク〜ポストパンクが好きな人向け。
毎日、テレビで緊急事態の報道を見ては頭が”カーッと”なっている時に、清涼剤のような役割をしてくれ、心が落ち着いた。
後世に語り継がれるようなアルバムっていうのは、聴いた瞬間にピーンと張りつめるようなものがあるが、このアルバムは埋もれて何年か後にリサイクルショップで叩き売られているものを、なんとなく買ってみたら思いのほか良かったと言われるようなアルバム。


Perfume Genius / Set My Heart On Fire Immediately (Matador)
ファーストアルバムの頃のような宅録ではなく、アルバムを出す毎にロック化が進んでいる、Perfume Genius の通算5枚目。
初めて聴いた瞬間に、今年のベストアルバムの一枚になることは容易に想像できた。
比較的ポップな曲から厳かな雰囲気の曲まで一曲一曲の完成度が高いので、万華鏡を見ているかのよう。
5曲目「Leave」は、弦楽器主体の音とアルバムタイトルを含んだ歌詞が素晴らしい。
艶かしいヴォーカルは、大好きなマーク・アーモンドに匹敵する。




他には、
Orland Weeks / A Quickening (Play It Again Sam)
Touche Amore / Lament (Epitaph)
Protomartyr / Ultimate Success Today (Domino)
Dream Wife / So When You Gonna… (Lucky Number)

といったところ。

ストリーミングでよく聴いたのは、
Jeff Rosenstock / No Dream 
Bob Mould / Blue Hearts


新人バンドでは、
Sports Team / Deep Down Happy (Big Desert)
ブリット・ポップの復活!と大きな声を出したくなるような、王道の英国的なサウンドを出しているロンドンの6人組。
このファーストアルバム、音はBlurとかFamily CatやCUDのよう。
歌い方はPulpのジャーヴィス・コッカーを彷彿させる。
何しろ勢いがあって、楽しくなる。
2020年、新型ウイルス感染症でパンデミックになっていなかったら、夏のフェスティバルでブレイクしていたに違いない。
眉間にシワを寄せずに、聞くことができるところが、最大の魅力。


こうやって書き出すと、あまり聴いていないような気がしていたけど、結構いろいろ聴いていたことに気がつく。


2020年は3月から12月まで、ステイホームだった。
2021年も今のところ”ステイホーム”継続中。
インターネットのおかげで、世界につながっている事が実感できる日々だ。


体に気を付けましょう。
じゃあね。

2021/1/23



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