第274回 ”重箱の隅から” の巻 インターネットにつなげると、世界中の音楽がリアルタイムで楽しめる。 10年前頃から、BBCのインターネット・ラジオの番組を聞くようになって、情報の行き交うスピードの変化に驚いている。 40年前は在英の友達にジョン・ピールの番組をカセットテープに録音してもらい、郵送で届いたテープをひと月遅れで聞く事がこの上ない喜びだった。 今のように自宅で簡単に聞く事ができる幸せは計り知れないが、逆に情報が多すぎて混乱したりもする。 とはいうものの、やっぱり恩恵のほうが大きい。 マーサ&ザ・マフィンズの 「エコー・ビーチ」 や ザ・パッションズの 「アイム・イン・ラヴ・ウィズ・ア・ジャーマン・フィルム・スター」 といった ”よく聞いていた曲” がシェイムやフォンテインズDCと同列で流れてくるとやっぱり嬉しくなる。 日本のラジオ番組では聞いたことのない少年ナイフやボリスも当たり前のように流れてくる。 このようにして番組を楽しんでいると、時々 ”この曲知っている、なんだっけ?” ”アルバムバージョンじゃないな、シングルバージョンだ!” とか、思いがけない出会いもある。 そうすると、シングル盤のレコード箱を探すことになる。 買った順に棚に入れてあるアルバムとは違い、バンドごとにアルファベット順に箱に入っているので、バンド名さえわかればすぐに取り出す事ができる。 聞いているときに全く思い出せない曲の時は、BBCの番組はプレイリストが出てくるからありがたい。 このようにして、シングル盤を聴きだすと止まらない。 ”このバンドって?” 全く思い出せないようなバンドのシングルだって持っている。 そこがシングル盤の良いところ。 買った時に理解できなくても、時が経って聴くと、”非常に良い” になることが多い。 今回は、そんな ”重箱の隅” からでてきシングル盤のお話。 ことの発端は、ちょっと暗めのポストパンクが聴きたくなって、”English Subtitles” が Glassレコードからリリースしたセカンド・シングル 「Tannoy」 を聴こうとした時のこと。 見慣れないレコードがEssential Logicの後ろにあった。 The Eternal Scream「How I Wish」。 全く覚えがない。 ジャケットを見ると暗そうな感じなので、ついでに聞いてみることにした。 聞いてみたら、思わず ”ニッコリ”。 この隙間だらけの暗さは、まさに求めていた音そのもの。 出だしは、Ski Patrol の「Agent Orange」 のような、落ち込んだベースのリフ。 そこに乗ってくるギターの音は、”ギター始めました” みたいなぎこちなさ。 軋んだ感じは、なんとも言えない格好よさがある。 Altered Images のファーストシングル 「Dead Pop Stars」 なんかも連想する。 ヴォーカルもJoy Divisionフォロワーみたいに、めちゃくちゃ暗く歌っているけど、完全に初心者のノリ。 ドコドコしたドラムは、1919 や Play Dead みたい。 おそらく時期的に手本はBauhausかな。 B面の 「CHILD」 も、この当時のバンドならではの魅力に溢れている。 ギターのカッティングに、どことなく、スコットランドのバンドを思い出すな。 レコードのラベル面に情報を詰め込んでいるところは、DIYパンクそのもの。 メンバーの名前に一緒に書いてあるコンタクト先の電話番号が 01 だから、ロンドンのバンドなのかな。 一枚のシングル盤から、こんなにいろいろなことを想えるだなんて、なんていう幸せ。 デジタル配信だと、ここまで悠長な楽しみ方しないもんな。 The Eternal Scream の次は、Everest The Hard Way の 「Tightrope」 が。 色々なシングル盤が出てきて幸せ。 気分はすっかり春だ。 じゃあね。
2021/3/26
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