第276回
”2010's パンク・アルバム” の巻



前回のエッセイを書いた後に、昔のパンクばかり語ってしまう癖があって困ったもんだと思った次第。

そこで、”パンクは現在進行形”っていつも話しているので、247回の続編になるが2010年代のパンクを総括してみようと考えた。

正直なところ、2010年からの10年間は日本のバンドに面白いバンドが多くてライブを見る機会が多くなった。

海外のバンドはDOLL誌がなくなったこともあり、パンク専門の情報を得るのにインターネット中心に変わったことも大きな変化。

インターネットで情報を得る利点は、総合的な音楽サイトから好きな人が情報発信しているところまで知りたいことが自宅にいても即時に解ること。
ただし、興味がないと自分から情報を取りに行くことができないから、漫然としていられなくなってきている。

”あれもこれも聞いてみたい”と思っている10代・20代の時なら、今の時代は非常に便利この上ないのだが、限られた時間で”音楽でも聞いてみるか”という、中高年には少しハードルが高くなっているような気がしてしまう。


さて、今回は英語圏のバンドを中心に話を進めてみたい。

2000年代は1990年代のパンク・リバイバルの波及もあり、ポップ・パンクのParamore、Fall Out Boyの人気が凄まじかった。

また、ゴスを取り入れたエモで一躍世界中に人気を広めたMy Chemical Romance、激情系なのに楽曲にポップなところもあるThursday Deftones直系のメタルとオルタナティブ・パンクを融合したLinkin Park等々、次から次へと”大物”バンドが登場してきたが、2010年代は、パンク精神を第一に活動をしているようなバンドが多く、アルバムを出したらメンバーチェンジ、活動停止してしまうバンドが増えてきた。

もっとも、バンドなんて楽しい時間を過ごすことができれば良いのだから、楽しくなくなったらやめるのは当たり前だ。

どうしても、長く活動しているバンドばかり注目してしまうが、多くのバンドは5年やっていれば長寿じゃないか、だから10年の期間で選べば、バンドが活動停止していてもおかしくはないはずだ。

個人的に2010年代は、メタルテイストのあるバンドよりも、ポスト・パンク、ポスト・ハードコア、インディー・ロック寄りのバンドを好んでいたため、すこし偏りがある。

いわゆるポップ・パンクも一時期ほど熱心に聞かなくなった。


2010年代を通して一番よく聞いたバンドは、アメリカはカルフォルニアのロサンゼルス出身の5人組、Touche Amore(トゥーシェ・アモーレ)。

彼らのことは、セカンドアルバム『Parting The Sea Between Brightness And Me』(2011年)で知り、以降 昨年リリースされた5枚目のスタジオアルバム「LAMENT」まで、ズーッときき続けている。

このバンドの何が衝撃的だったというと、ギターの音がクリアーで、いわゆるポストロックやマスロックの風情があるのに、タイトでメリハリの効いたリズムとダイナミックな躍動感を伴ったヴォーカルの絡みが、それまで聞いていた歪みの多いギターサウンドが中心のハードコア・パンクとは一味違っていたこと。

日本のPaintboxを初めて見たときと同じような感じだ。

2度の来日公演で見た彼らは、ライブ前におにぎりを食べて水を飲んで、ステージに上がり約30分のライブで爆発させるという、我々と何も変わらないライフスタイルだった。


パンクという観点から見ると、ストレートな表現で問題提起をしている東海岸のロードアイランド出身の男女3人づつ6人組のポリティカルなパンクバンド、Downtown Boys『Full Communism』(2015) が勢いもあり好きなアルバム。

実は、手に入れた当初は70年代のハードロックばかり聞いていた時期なので、あまりピンとこなくて棚に入れてしまっていたが、あとで聴き直しをしたら、パンクそのものでお気に入りになったアルバムだ。

サックス2人、ギター、ベース、ドラム、英語やスペイン語を交える女性ボーカルの自由奔放さは、21世紀ならでは。
かつてEssential LogicやX-Ray Spexが持っていた10代の若さ故にガムシャラに放出できる力強さに近いところを感じ取れる。

このアルバムをリリースした、Don Giovanniレコードは、WaxahatcheeやScreaming Femelesをはじめ、ロサンゼルスの初期パンクシーン活躍した元The BagsのAlice Bagのソロアルバム等々を出しており、2010年代に注目していたレーベルの一つ。

Downtown Boysは、メンバーチェンジをしてセカンドアルバム『Cost Of Living』を2017年にサブポップから出しているが、ファーストと比べると若干おとなしく感じられる。


イギリスのバンドはどうなのかといえば、しょっちゅう書いているように、毎年のように新しいパンクバンドが登場して来た。

そのような中でも、なんたってブリストルのむさ苦しい男5人組の IDLES が最大の収穫。

249回で書いたように、1976年にSex Pistolsの動く姿を初めてテレビで見たときと同様の衝撃。

ファースト『Brutalism』(2017)、セカンド『Joy As An Act Of Resistance』(2018)を勢いよくリリースし、2018年9月に初来日し、凄まじいライブを披露した。

音的には、ポスト・パンク、ポスト・ハードコアに分類される、インディー・ロックをも飲み込んだ今のパンクそのもの。

Jesus LizardのDavid Yowも参加した、サードアルバム『Ultra Mono』(2020)はイギリスのアルバムチャートで1位(2020年10月2日付)になっている。

21世紀に、パンクバンドのアルバムがチャートで1位になるなんて驚きを隠せなかった。


他にも、219回で書いたSauna Youth、227回で紹介したSlavesが、イギリスのパンクバンドではお気に入りだ。
パンクバンドはインディーで作品を出すのが当たり前の時代に、Slavesはメジャー配給のVirginから作品を出していることを付け加えたい。


1990年代からやっているバンドの中では、Against Me!『Transgender Dysphoria Blues』(2014)を入れないといけないな。

No Idea・Fat Wreckとキャリアを重ね、Sireと契約しメジャーシーンで活動していたが、2010年代に入りヴォーカルのLuara Jane Graceom がトランスジェンダーを告白している。

で、アルバムの出来はどうなのかと言えば、すこぶる良い。

私のパンク基準である、The Clashのファーストアルバム、X『Wild Gift』と同様のインパクト。

カントリー色のあるギターの音は、このバンドならではのものがある。

その魅力は、You Tubeでライブ映像を見てもらえば、一発で理解できると思う。



もう一つ、2010年代の特徴として、女性の活躍が著しかった。

全く気にしていなかったのが、今回、いろいろなアルバムをピックアップして聞いていたら、マッチョな男の世界のように思われがちなパンクの世界は、女性がフロントに立つバンドや、女性中心のメンバー構成のバンドが増えていることに気がついた。

名前を思いつくままに上げていくと…

Priests『Nothing Feels Natural』(2017)
Nots『We Are Nots』(2014)
White Lung『Sorry』(2012)
Torso『Sono Pronta A Morire』(2015)
Super Unison『Auto』(2016)
Gouge Away『Burnt Sugar』(2018)
War On Women『Capture The Flag』(2018)
Savages『Silence Yourself』(2013)
Dream Wife『Dream Wife』(2018)
Krimewatch『Krimewatch』(2018)

といった具合だ。
220回で取り上げたGirlpool『Before The World Was Big』(2015) も忘れてはならない。


メタルテイストのバンドは、今まで”水と油のような関係”と思われたいた、シューゲイザーとメタルを融合させた、Deafheavn『Sunbather』(2013) と Nothing『Guilty Of Everything』(2014) の2枚に度肝を抜かれた。


以前のように熱狂的に聞かなくなったが、”ポップ・パンク”にも良いバンドが多くて…

The Story So Far『Under Soil And Dirt』(2011)
Modern Baseball『Holy Ghost』(2016)
Joyce Manor『Never Hangover Again』(2014)

のように、次々と名前が浮かび上がってくる。


他は、インディーロックに分類されることが多いが、基本がパンクにあると思うバンドでは、
Cloud Nothings『Attack On Memory』(2012)
Metz『Metz』(2012) 
Parquet Courts『Light Up Gold』(2013) がいる。

爆走ロックンロールタイプには、
The Shrine『Primitive Blast』(2012)
Burning Love『Rotten Thing To Say』(2012) がいる。

そうそう、Turnstile『Time & Space』(2018)を忘れていはいけないな。


まだまだ、他にも良いアルバムをたくさん聴くことが出来た2010年代。
インターネットで、すぐに音を聞くことができる時代なので、よかったらトライしてください。


最後に、2010年代、私のベスト11(今日の気分)


Touche Amore『Parting The Sea Between Brightness And Me』(2011)
Downtown Boys『Full Communism』(2015)
IDLES『Brutalism』(2017)
Against Me!『Transgender Dysphoria Blues』(2014)
Sauna Youth『Distractions』(2015)
Slaves『Are You Satisfied』(2015)
Super Unison『Auto』(2016)
Turnstile『Time & Space』(2018)
White Lung『Sorry』(2012)
Priests『Nothing Feels Natural』(2017)
Girlpool『Before The World Was Big』(2015)


じゃあね。

2021/5/22

映画「JUST ANOTHER」
豊田市で上映決定。
日程|5/14(金)〜
劇場|イオンシネマ豊田KiTARA
お見逃しなく!
<上映スケジュール>
4/24(土)〜|神奈川・横浜シネマ・ジャック&ベティ
5/14(金)〜|愛知・イオンシネマ豊田KiTARA

●公式ホームページ   https://genbaku-film.com/