第279回
”ロックはシングル盤？” の巻


先回の70’Sハード＆ヘヴィーのアルバムランキングは、アメリカのバンドを多く入れてみようと考えた。
その結果、大好きなThe Sensational Alex Harvey Band / Nextを忘れていた。


私は、1970年代はじめからロックを聴き始めた世代なので、シングル盤よりもLP盤で音楽を聴くことが格好良いと思っていた。

ラジオ放送も、FM局が”アルバム一面を全曲を流します”がトレンドだったから、よりアルバム志向が強くなった。

初めてイギリスに行った時、ロンドンのマーキークラブでDJがSex Pistolsの「God Save The Queen」をかけた時に、音の分厚さにびっくりしたんだけど、それは電圧の差とPAシステムの違いだろうとずーっと思っていた。
もっとも、自宅でパンクを聞く時にシングル中心になったのは、その体験からなんとなくシングル盤を聴いていれば、ロンドンのクラブにいるような気分になれると、自己暗示していた。

パンクの登場で、シングル盤を好きになったが、CDの登場以降いつの間にかアルバムに戻っていた。

CDにソフトが置き換わってから、アナログLPは、その利便性からCDに置き換え作業が続いている。

だって、レコード針を頻繁に交換する必要がなくなったんだもん。

だから、今更アナログのシングル盤を追っかけるとは、夢にも思っていなかった。


2011年、イギリスに行った時、The Whoの「My Generation」のシングル盤を見つけて購入した。

自宅に帰ってきて、そのシングルを聴いたら今まで聞いていたものとは全く別の、凶暴な音作りに驚いた。

LPとCDを取っ替え引っ替え聞き直したが、やっぱり違う。

中域がボディーブローのように効いてくる。

じゃあ、他のシングル盤はどうかといえば、パンクは”シングルは別物”っていうことを痛いぐらい知っているけど、パンク前のシングル盤に興味がなかったため、イギリス盤のシングルは全くもっていないので比べようが無い。


「My Generation」ショックもあり、以降渡英すると少しづつシングル盤を買い足してきた。

パンクのシングル盤を買う時のような、レコード番号やプレスの違いにまで気を使うようなことはない。
パンク以前のシングル盤に詳しくないので、中古レコード店で知っている曲を買う程度だ。

だから、マイナーなものじゃなく比較的メジャーなヒット曲メインなので、マニアックなものは全く無い。
そのようなお気楽な買い物の中でも、はっきり違いのわかるシングルがあるから、面白い。

Status Quoの「Caroline」なんて、まさに衝撃的！

イントロのギターがノイジーでスピーカを破って出てきているのでは無いかと思わずにいられないほど暴力的だ。
日本盤のアルバム「Hello」も十分暴力的なんだけど、その差はアブとハエくらい違う。

音が刺さってくるのだ。

CDのリマスター盤で”いい音だなあ”って満足していたんだけど、比べるとマイルドな感は否めない。

Sladeの「Mama Weer All Crazee Now」も、CDのリマスターされた音、LP「Slayed?」に入っている音と全く別の、おかしくなっちゃうような音だ。

頭の上でキンキンなっている感じ。

ノディー・ホルダーのただでさえうるさい声が、極限まで行っている。

他にも、Atomic Rooster、Juicy Lucy、Family、Gun等々、LPやCDとは全く違うワイルドさに、クラクラしちゃう。


CD化でリマスターが何度もされて、次第に良い音の基準が変わってきていると思う。

例えば『キング・クリムゾンの宮殿』は、周年記念でリマスターされているから、ついつい買っちゃうけど、もっこりした音が段々と分離が良くなって”この音イイね”って思うようになっている。

パンクものだって、Sex Pistolsの音も、知らないうちに頭の中で変換されているんだろうな。


少し増えたシングル盤の曲を、CDに入っているものと聴き比べると、圧倒的に中域に差が出てくる。
再生する装置の特性が、ロック向けなこともあり、シングル盤が良く聞こえるのかもしれない。

どのシングルも、概ね”ガッツリ”したロックならではの魅力に溢れている。

イギリスの人は、子供の時からこんな音を聞いて育っているんだ。


感染症が落ち着いたら、”シングル盤を聴こう会”をどこかでやってみたいな。

だって、衝撃的なんだもん。

この気持ちを多くの人に伝えたいよ！


じゃあね。

2021/8/21