第8回
夏の使者」〜昆虫日記の続き〜


梅雨時に拾ったノコギリクワガタは、9月になってやっと高くなった気温の中で、クワガタらしさを見せてくれた。

前回、都合3回脱走を図ったと報告した雄のわっくんは、あの報告後さらに2回脱走を試み、とうとう都合6回目にして脱走に成功した!

もし、たまたまうちの居候が夜更かしをしていなくて、もし、たまたま妙な物音に気づかなかったら、わっくんはきっと家の中で行方不明になっていたことだろう。
そして、ネコの中でも最もどんくさいとされるうちのネコはきっと鼻先をツノではさまれていたことだろう。

幸い、わっくんはまだ虫箱の上にいるところを目撃され、箱の中に戻されたのだった。

この事件のおかげで、わっくんの家は超豪華邸宅になった。つまり、天井まで上れない大きさの箱にしたのだ。中に入れる木も3つになり、枯れ葉のじゅうたんもしかれ、さながらクワガタのアスレチック運動場。
けっこう楽しそうに家の中を散歩するわっくんであった。

ブータンはおとなしく木くずに潜っているので、こじんまりした家のままにしておいた。

さて、夏を限りと思われていたクワガタたちだが、朝晩妙に冷える頃になっても元気にしている。
そんな時、ある人から貴重な情報。ノコギリクワガタは温度さえ保ってやれば、うまくいったら1年くらい生きているというのだ!

がぜん私ははりきった。
冷たいフローリングの上に置いてあった超豪華邸宅と普通住宅をホットカーペットの上へ移動し、電源を入れて上からフリースをかけ、さらに段ボールで覆った。これで、虫箱の中の温度は真夏と同じくらいになる。

ノコギリクワガタの寿命新記録への道が始まったのであった。

日を重ね、月を重ねて、人間にも暖房が必要なくらいの深い秋がやってきても、わっくんは空っぽになったエサ用の穴に頭をつっこんでなめるほど元気に過ごしていた。
しめしめ。

しかし、まさに今日の朝。虫箱をのぞいたら、わっくんは仰向けにひっくり返っていた。
足をさわって呼びかけたが、ぴくりとも動かなかった。
なんてあっけない最期なの!
昨日までエサ食べまくっていたのに!

というわけで、今日は泣きながらこのコラムを書いている私であった。
ブータンはがんばってくれ!

「住む者のいなくなった超豪華邸宅」

2003/10/9


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