第11回
「また拾っちゃった...」


近頃とつぜん春が近づいてきて、風の強い日が多い。
こんな日は風に飛ばされるものがけっこうあるようだ。

友達のライブに行こうと思い、夕方家を出た。
出たところはバス通り。見晴らしのいい道路のはるか向こうを見るとバスが来ていた。
バス停めざして急ぎ足になった。
と。
視界に何か入った。

コンクリートでできたファミレスの壁と道路が直角に交差するところ。
コンクリートとコンクリートの境目の、タンポポのような草がかすかに葉を広げているところ。
小鳥だ。
ぬいぐるみ? 子供のおもちゃ? 生きているとは思えないくらいじっとしている。
いや、見た瞬間、私の脳みそは確実に認識していたのだ。それが本物の鳥だということを。
そして、私の脳みそは確実に認識していたのだ。そんなところに鳥がうずくまっているのは明らかに異常事態だということを。
おもちゃであってくれと願う気持ちから一瞬そう思ってみただけだったのだ。

おそらく見つめて1秒もたたないうちだったのだと思う。
鳥の目がシパッシパッとまばたきした。

やっぱり生きてる!!
 
これを見てしまっては、もう自分をごまかしきれない。
生きた鳥が、なんらかのトラブルで、そんなあり得ない場所にうずくまっているのだ。
ヒナが巣から落ちたのか? しかし、こんな時期にヒナがいるものだろうか?

「どうした!?」と茶色い頭をなでてみた。
逃げない。
やっぱり、絶対おかしい。

その時、後ろから「どうしたの?」という声が聞こえた。知らないおじさんだった。私がしゃがみこんでいるので気分が悪くなったとでも思ったのだろうか。
「鳥がうずくまってるんです」と私。
「あっ!! 病気だ!!」と、おじさん。
しかもその後のせりふは「連れてって箱に入れて飼えば? オレはひとりだから飼えないけど。」

そして去っていった......

いや、こうしてはいられない。鳥を動物病院に連れて行こう。
自分ちのネコ用に近所の動物病院の場所は調べてあった。5分も歩けば病院がある。
両手でつかもうとすると、ちょっとだけいやがって逃げようとした。しかし、30センチも飛べない。
もう、おかしいのは明白だった。
むりやりつかんで病院へ行った。

その動物のお医者さんはとてもいい人だった。
なんでも、それは年寄りのスズメで、おそらく突風にあおられて木か壁に激突したのではないかということだった。
いずれにしてもその晩もてばいい方だという。
うちにはネコがいるのだと言うと、病院であずかってくれると言ってくれた。
野鳥は無料で診ていますとも言ってくれた。

次の日電話をしてみると、一晩もつどころか、連れて行ってから3時間ほどで死んだらしい。
本当に短いつきあいだった。

それにしても、スズメの寿命が2年ほどだということを知っている人がどれだけいるだろう?私は今回初めて知った。
2年たったスズメはどこで死ぬのだろう?
そこいらにやまほどいるスズメだが、道ばたで死んでいるところなど見たことがないではないか。
不思議だ。

神様はまたいつか私の前に何か動物を落とすのだろうか。
せめてあのスズメが鳥インフルエンザにかかってませんように

2004/3/11

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