ドラムの話


久しぶりにスタジオに入った。二人で。

カオリちゃん。私の大学の教え子だ。

別にバンドをやっているらしくて、そのバンドに疲れているので気分転換に私とやらんか、と薦めてみたのだ。これがバンドではなく夫婦生活だったらとんでもない話だ。

彼女の前にやっていたバンドというのは(私にとっては)非常にヘンテコなもので、バンマス(確かギターかなんか)が作詞作曲をしてボーカルに歌わせるのだという。あらかじめ「こうなるべき姿」が徹底的に存在しており、それからズレると怒られる。

工場みたいだな、と思った。

彼女が「楽器もやりたい」というとバンマスは反対したらしい。どうして?

それで、そのバンマス大先生の作り上げるサウンドがさぞかし立派なのかと思ったら、ただのニルヴァーナの劣化コピーバンドだった。オリジナル曲らしい。ニルヴァーナは好きだけど別にそれは何とも思わなかった。
曲を作るのは大事だけど何か違う、何か違うぞ、と思った。それだったら自宅録音で一人でやればいいと思う。

私は彼女に「とりあえずドラム叩いてみなよ」と提案した。
私はドラムがいるバンドをまたやってみたかった。彼女もドラムを初心者であるがやってみたいという。互いの目的が一致した。だけど彼女がギターをやりたかったならギターを弾かせていたと思う。私は私で困ったものだ。

とりあえず音を出す。そこからいろいろ考えて着陸する場所を探すというやり方。

さて、スタジオでドラムを叩く。

「バスドラが叩きにくいです」
「じゃあ外そう」
「ハイハットが」
「取っちゃえ、そんなの」
「スネアの音が嫌いで」
「あー、いらないいらない」

気がついたらフロアタムとシンバルだけになった。彼女がドラムを叩く。聞いたことのないリズムだった。いや違うぞ、聞いたことはある。何だ、これ。

確認してみたら彼女は青森出身で「ねぶた」の太鼓を子供の頃に叩いていたのだという。何だ、初心者じゃねえじゃないか。
ちなみに「NEBUTA」と「NEPUTA」は違うものらしい。いろいろ説明されたが何かわからなかった。青森の人には大事なことらしい。そうなの?

そういうわけで、今度のバンドのリズムはねぶたメイン。

そして最大の問題は、私のパートがまだ決まってないことだ。

2003/12/9