渡辺正 連載コラム#26 フジヤマで売ってないレコードたち。
年末大晦日になると思い出すことがある。 まだ私が「下北沢五番街」というレコード店にいた頃、大晦日は棚卸作業が年中行事で、ピストルズの日本盤が出た年だったかどうかの年の棚卸作業の助っ人に、当時五番街本部にいた生悦住さん(現モダ〜ン・ミュージック店長)が手伝いに来てくれた。 モー娘だか浜崎だか知らないが、今年は誰が取ったのかすっかり興味もなくなったのでどうでもいいが、当時は仕事に少しは役立つので、やれ中森明菜だ松田聖子だ、とまるで競馬の予想屋みたいに騒いでいたが、まぁこの年派手だった沢田研二の「勝手にしやがれ」説を私は唱えていた。店には「勝手にしやがれ」の在庫が余っていたので、そうならちっとは売れるだろうと、浅ましい店長気質。 思い出すと、普通のレコード屋の仕事が蘇ってきて、なんとも情けないやら懐かしいやら。 我々スタッフの、ああでもないこうでもない予想を、飄々と聞いていた生悦住さんが、にやにやしながら突然「レコード大賞、勝手にしやがれ!」と、私の顔を見て同意する。 しかし、その後で「セックス・ピストルズ!」と、小声。 ニヒルな言い方に笑った。 大晦日の棚卸という、実にサラリーマンな生活を思い出す。 この年、沢田研二は落選したが、一体誰が受賞したんだろう、もう忘れた。覚えているのは、セックス・ピストルズと言い放った生悦住さんの冗談だけ。 それだけ、我々の間では、当時パンクが旬だったのである。 2002/1/9 |