渡辺正 連載コラム#28 フジヤマで売ってないレコードたち。
10インチレコードが突然気になりだしたきっかけを作った盤です。 大体においてクラシックなんておよそ興味の対象外なのですが、ターンテーブルが10インチの回転盤レコードプレイヤーを自作したのがきっかけで一時10インチ盤を集めた。集めたといっても本末転倒な動機なので音楽はなんでもよかった、プレイヤーにピッタリの10インチ盤を乗せて針を置いてトレースさせると気持ち良かった。 音楽に対しては実に不純な動機だから、いきおい安い盤しか買わないと決めてた。 本当はチャーリー・パーカーやモンクといったジャズのオリジナル10インチ盤が欲しかったが何せ高いこと山の如し。別にコレクターでもないからひとときの酔狂の為にレコード1枚1万や2万使うことはない。ま、高じてしまう性格だからジャズは諦めた、普通の30センチLPを買えばいい。しかし10インチ盤のジャケットデザインにモノとしての良さを知ってしまったのは少し後悔してる。知らずにいれば済んだのに、なまじ知ってしまうと泥沼にはまるから、自分で「安いもの」しか買っちゃいけない法律を作った。 知らずにいれば良かった......と、思う事は世の中たくさんある。 こと趣味に関しては役に立たない濃度が大きければ大きい程、魅力と比例する。 その法則を知っているから法律を作った。私大人。もっと大人になれば見境無くシンショウ潰す小原庄助状態に突入するが、そこまでの大人ではない。 吉祥寺のレコード屋の隅に処分品コーナーがあり、買われる様子もなく50枚ほどのクラシック10インチ盤が埃を被ってた。200円だか300円だかの値段でジャケットデザインの感じがいいものを10枚購入した中の1枚がこのワグナーの歌曲。 このソプラノ歌手がどのほどの人かも、全く知らないが有名なんだろうきっと。 そのあたり気持ちいい。 予備知識が無いという事が気持ちいい。なにか常に新鮮だ。ちょっとした事に感動できる。クラシックのオペラや歌曲の大げさ加減がこんなに気持ちがいいものかを知った。訳も分からず深刻そうなムードもいい。いますぐ死んでしまいそうなこの空気はなんだ!なにをそんなに必死に歌い上げてるのだ! 素晴らしい! こんな経験なんてそうない。クラシック侮れない。凄いものは昔っから凄いのだ。 実家で、このレコードを大音量でかけてても、姉は仕方ないといった風情で立ち去る。同じ音量でリー・モーガンをかけてると「うるさい!」と怒るくせに。 まだまだクラシック至上主義は存在するんだなぁ....と、苦笑い。 2002/1/30 |