渡辺正 連載コラム#35 フジヤマで売ってないレコードたち。
奇怪なフリーでのオリジナル曲ではなくて、アイラーがスタンダードの唄モノ名曲を吹いたらどうなるか....の答えが見事に聴き取れるアイラー初期のアルバム。 A面冒頭のアイラー自身による自己紹介も初々しくて健気で、およそアヴァンギャルド闘士らしくなくて「わたし、こんな人ですが、まあ聴いて下さいませ」と謙虚で好ましい。 63年コペンハーゲンでのライブ収録だから、その後のESPやインパルスでの怒涛ぶりでもない、微妙な感じが奥ゆかしくて私この盤大好き。サックスはメロディを上手に吹く人よりも音色に気持ち良さを求めてしまうから、アイラーはこの微妙に奇妙な激しさを含む分かり易い音楽が気持ちに響く。 なんと、せつない音楽なんだろうと。 どんなに激しく吹いても、悲しい。 私がフジヤマをやる前に知り合って意気投合した女性が居た。女性には珍しくアイラーが好きだと言っていたが、アイラー好きな女性ってなんだか嫌だよね、例えば「あぶらだことかゲロゲリゲゲゲとかが好き!」なんて言われるとなんか引くよね、ま、そんな感じ。できれば、モーニング娘の辻なんとかが好きとか言ってニッコリしてくれた方が、呑気でいい。 でも彼女はバリバリの前衛ファンで60年代の旧態然としたハードバップが好きだった私にいつも喰ってかかって論争しかけてきた。そんなだからいつもジャズの話しは避けて映画の話しとかしてたが、ある日なんかの拍子にアイラーの死に方の話題になった。 何者かに射殺され河に浮かんだその死に様である。 音楽と生き様の挙行一致だと言って譲らない彼女。死に方に良いも悪いもないと言い張る私。ちょっとした喧嘩が1時間ほど続いて彼女泣き出した。良し悪しは別にしてあんな死に方をしたいと言った彼女を猛烈になじった私。 やはり、言い過ぎたと反省した私は、彼女の手を取り謝ったが最早号泣。アイラーのサックスみたいに強力。インパルス盤しか持ってなかった彼女に銀座十字屋へ一緒に行き、この盤を買ってプレゼントした。 「アイラーらしく唄ってる優しい音楽だよ」と言って、謝った。 2,3日して手紙が来た。 「私、少し楽に生きようと思う、素敵なレコードありがとう」と、キューティなマンガの便箋で書かれてあった。 2002/4/15 |