渡辺正 連載コラム#40

フジヤマで売ってないレコードたち。


paul desmond/easy living (ビクター/LP)

ポール・デスモンド(a.s)とジム・ホール(g)の鉄壁和み盤の一品。

なんたって、邦題が「憩」だもの。

くつろいだ音楽だけど、緊張感がないものを「くつろぐ」とは言わない。聴いている方はリラックスするが、そういうものをやってる方はとてもピリピリしてるものなのだ。

静かであることは時として思索の時なのだ。

昔、TVのCF制作会社を辞めるかどうか悩んで、部屋から一歩も出ずに、ズル休みしてこのレコードを聴いてた。コマーシャルな仕事がアホらしく思えたのが第一要因なんだけど、仕事と割り切れない青い自分もいたんです。

転機というのはそうないが、この時の空虚感は、明らかに私の人生の一大転機だと今にして思えばあてはまる。もの凄く悩んだ。自分が好きで選んだ道がこれなのか......と、マジメに思い悩んだ。

仕事は楽しいが、空しい。20代の私には他にも、やりたい事が山程あった。

かなり荒れた、こころの中で。

荒れてる時はやけに静かで動かないものだ。静かに部屋で「憩い」な音楽を聴いているだけ。
なぜこのレコードばかりかけてたんだろう。

私の状態は「憩い」のイの字もなかったのである。

2002/6/8


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