渡辺正 連載コラム #50

フジヤマで売ってないレコードたち。


blossom dearie/once upon a summertime(verve/LP)

1959年録音のギタートリオ(ギタリストはマンデル・ロウ)にブロッサム・ディアリーのピアノ・ヴォーカルがキュートにおさまっている。

今じゃすっかりお婆さんだが、この頃のままのカマトト声で歌っているのも凄い。

サイドメンのレイ・ブラウンとエド・シグペンというリズム隊といえば、オスカー・ピーターソン・トリオで鉄壁だが、このアルバムでは彼女の小悪魔的な歌声をしっかり支えていて、好ましい。ロックのライブ・バンドでも、ドラムとベースがしっかりしててギターとヴォーカルが破天荒なモノは大概聴き応えがある、それに似ている。

とにかく、彼女の声に参ってしまう。カワイイ。他に言いようが無い。ピアノもなかなかにジャジイなんだけど、そのキューティヴォイスだな、やはり。

シーミールというバンドのヴォーカルをやってるワカちゃんが、家に遊びに来た時、BGMにこれを掛けた事がある。案外ハードで、ハイテンションなヴォーカルをステージでやってたのを見て、彼女の「少女としてのキュートな部分」が好きだったので、このブロッサム・デュアリーのようにキュートに歌う事も「あり」なんだよ.....と、言いたかったから。

口で言っても説明がメンドクサイから、いきなり掛けてみました。

彼女は「今かかってんのは、ナニ?」というから、軽く説明したが、興味なさそうに「ふ〜ん」と言ったきり他の話題へ行ってしまいました。ま、彼女らしいと言えば、らしい。

よそんちへ遊びに行った時に、そのお宅で何気なくかかっているBGMは、案外その客へのもてなしも含んでいる。

ワカちゃんは、その後もブロッサム・ディアリーのブの字も知らないかのように、力一杯ステージで歌ってた。

私の、密かなワカちゃんキューティ化作戦失敗の巻。

2002/11/16


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