渡辺正 連載コラム#55 フジヤマで売ってないレコードたち。
病院に行くときは、このアルバム。 せつないムードと淡い夢が詰まってるから入院なんかしようものなら、たいていこのレコードをカセットに落として少っちゃいラジカセを持参するのが私の流儀。訳は無い。が、パイプのベッドによく似合うのだ、この音楽、このバーバラ・リンの声。 最近、体調崩して我慢しきれずに、入院したが流儀に従ってラジカセ持ち込み怒られた。憎っくきナース、覚えとけ。ちょっとばかり可愛いからって怒ることはないだろうに。イヤホンで聞くぐらい許せよ乙女。とかいっても持ち込みましたけど。 隣りで寝てた若い子が、翌日私のそんなリハビリ方法を真似たのか手にカセットテープが握られていたので、それは何かと尋ねたら恥かしそうにしてるばかりで教えてくれない。なんだよ最近のヤングボーイは排他的だなぁ。とかなんとか思ってはみたものの、どうでもいいからほっといた。そしたら、そのシャイなヤングボーイがラジカセ貸して下さいませんか、僕も聴きたいモノあるんです、とかなんとか。 とにかく暇だったので快諾。友達になれるかも。暇つぶしに友達は最上の栄養。 大音量で聴くもんだから、さすがのイヤホンでも、漏れるシャカシャカした音のリズムがうっとおしい。とは言っても何せ友達作りと我慢した、その漏れるリズムで推理して音楽は「ラップ」とほぼ断定。坊主頭でクロムハーツまがいの指輪してたし、各要素をとりまとめて「ラップ」だな、と。暇だから、そんなどうでもいいことでも、一人お楽しみゲームと化す。私暇つぶしの名人。 こんな風体のヤツだから、もしかしてシャム69とかクラスだったりしたら一丁暇つぶし出来るけどなあ、とかなんとか。オヤオヤ身体揺すってるぜヤングボーイ、首を前後にグルービー。やっぱこの動きラップだな、もう決まり! ひとしきり聴いてからラジカセ返してくれたので、聞いてみた「なに聴いてたの?」 ニッコリ「聴きます?」アレレ友好的に変身したぞ若い衆、人はそうでなくちゃ。好きな音楽は和ませる力を持つものだ、とかなんとか心理学者してどうする。 すぐには聴かない。せっかくの入院だ、暇だしここは音楽当てゲームで楽しもう。そう思った私、相当暇。 彼、「ブー!」ときた。ブザーかい、やるなあ、もう友達会話だ。 満を持して、イヤホンを耳に。 ヘッタクソなブルーハーツみたいなバンドだったが、誰だかわかんない。イヤホン外して彼に聞く「なにこれ」 「俺のバンドです!」やけに自慢ぽい。シャイな感じ微塵もなし。さっきまでの貴方はそんなじゃなかった。 再び私はせつないバーバラ・リンで眠った。 2003/1/17 |