渡辺正 連載コラム #60 フジヤマで売ってないレコードたち。
「アイ・ラブ・ユー・ポーギー」が好き、特にニーナ・シモンが歌うこの曲がいい。 後々ゴージャスなストリングスを入れたRCA盤などよりも、このリズム隊バックにピアノ弾き語りのニーナ・シモンの切なさがいい。本当はピアニストとして成立したかったのかも知れない彼女のピアノ曲も捨てがたい、女セロニアス・モンクみたいなピアノで訥々とした中に、力強い意志を聴き取る事が出来る。 70年代ブラックパワー台頭時に随分と持てはやされたのは多分アフリカ回帰運動があったからだと思うが、私はその時期、そのムーブメントには惹かれなかったからニーナ・シモンへの絶賛ぶりには「どうもなぁ・・・」と懐疑的でした。んでも、かなりフォーク的で素朴な歌に惹かれていたんです。ここ最近彼女もパッとした話題もなかったけど、このファースト・アルバムはよく聴く。なんにしても、アーティストのデビュー作品というものにはその人のエッセンスが詰まっている、というのが持論の私を満足させるに充分なアルバム。 遅い朝、目が覚めて、フジヤマ開けようか、いつものように喫茶店でのんびり一服してからにするか迷う午後三時。怠け者の誘惑に負けて喫茶店に。呑気に珈琲飲みつつスポーツ新聞読んでたら「ニーナ・シモン死亡」の記事。 そうか、死んだか。 喫茶店の窓から見る三軒茶屋の外は呑気に良い天気。 そうか、死んだか、ニーナ・シモン。 哀しくもなく、気持ち良くも無く、ただ「アイ・ラブ・ユー・ポーギー」が聴きたい・・・とだけ。 部屋に戻ってステレオのスイッチを入れてB面の4曲目に針を落とす。 今日は一発で曲頭が出た、なんだか気分が良い。 2003/4/28 |