渡辺正 連載コラム #62 フジヤマで売ってないレコードたち。
70年代後半、ジャズが淡いロック風味になって、クロスオーバーと呼ばれ始めた頃の傑作アルバムですね。 決して、チック・コリアのリターン・トゥ・フォーエバーや、ジョー・ザヴィヌルのウエザーリポート、リチャード・ティのスタッフを傑作呼ばわりしてはならない。なぜなら、コーネル・ドュプリーのこのアルバムこそが、本来のクロスオーバーです。立派でもなく、大袈裟でもなく、普通の顔してのんきに演奏してる。大して売れなかったのも傑作らしい。傑作は大衆に支持されてはいけない。 60年代までのハード・バップがいくら好きだったとはいえ、「クロスオーバー」という言葉が嫌だった。 なんとなんのクロスオーバーなのか、腑に落ちないジャンル名。すぐにフュージョンなんてネーミングになったりしたが、ジャズが単にジャズと呼べない空気があったから、区別化しないといけない部分もあったのかも知れない。 要するにロックやソウル畑で活躍してる人とジャズ畑の人達とのクロスオーバーであってほしいし、出てくる音楽に興味深い期待を持たせてくれるモノであってくれれば「クロスオーバー」結構である。ロックビートだからジャズじゃないというのは、つまらない思想に思えた。聴いた印象上での「クロスオーバー」というのに嫌な匂いを感じてた。 傑作という言葉を、新しい考え方を生み出すヒントと、勝手に定義してみたら、実は、ジャズレコードの傑作は、ひっそりとコーネル・ドュプリーが作ってたんだ、と。 このレコードはぜんぜん古くならない。偉そうに新しいでしょう?とも言ってもいない、このヌケかたが実は「新しい」のだ。新鮮なのだ。だから今聴いても気持ちいい。音楽をジャンルで良し悪しする不毛を気付かせる。 あってもなくても困らないと思わせる程の、なんでもなさ。しかし、実際はその「なんでもなさ」で世の中成り立っている。 2003/6/22 |