渡辺正 連載コラム #64 フジヤマで売ってないレコードたち。
1988年夏だったか、大阪に遊びに行った。いつものように林君と会ってまったりとした時間を過ごした。彼の自宅でお笑いのヴィデオなんか観てへらへらしてた。 その年の10月に、西成のエッグプラントで西田君ヴォーカルのダンスマカブラなどとハロイン・パーティをやるので馬鹿騒ぎしようという林君企画。馬鹿騒ぎだから渡辺さんも参加してよというから、ならフジヤマゴーゴーズでいこう!とへらへら快諾した。中村達也、アクト、リョウ(ゴッド)、マーチン(フールズ)など集めてカヴァーバンドで、はちゃめちゃやってたからいい機会だと思ってた。 彼のヴィデオ・コレクションの当時売出し中のダウンタウンのとぼけた漫才の後に、思い立ったように、これ見てよとクランプスの例の精神病院でのライブヴィデオを見せてくれて林君ひとこと「ゴーゴーズ」の色に似てると笑ってた。観客である患者達は演奏するクランプスに関係なしのように勝手に踊ってる、全開で演奏し続けるクランプス。どっちも解放されてる妙なライブ。 ハロインだし、クランプスのカヴァーやってよとの宿題が出た。 帰京してゴーゴーズの練習後ミーティング。クランプスのカヴァー曲をテープにダビングしてメンバーに渡して聴いてもらうがマーチンの「ゴーゴーズの得意なファンキーな曲で、精一杯やった方がいいんじゃないの?」で、それもそうだと結局いつもやってたストゥージズのカヴァー曲などで必要以上に熱演するいつものパターンで心身解放作戦。 林君にクランプス出来なくて素直に詫びた。 「いやいや、色は出てましたがな」と、笑ってくれたのに救われた。サイコビリー風味であったのかどうかは疑わしいが、その全開ぶりに楽しんでくれたように思う。だが、エルビスの「ハートブレイクホテル」をカヴァーしたクランプスの凄さチープさは、あの時無理にでも演ってれば出せたと今でも思ってる。 クランプスが好きだった林直人君を、ゴーゴーズで笑わしてあげたかった。 先日、42歳の若さで亡くなった彼に「ゴメンな!」と小声で。 2003/8/7 |