渡辺正 連載コラム #70 フジヤマで売ってないレコードたち。
クルトワイルの戯曲というのは、およそヨーロッパの皮肉がたちこめて、真っ直ぐ向かい合うと混乱する。 クリス・カトラーという才人にしておかしな人は、この混乱を朴訥とした表現に洗いなおす作業で聴かせてしまう。このアルバムの持つ怪しげな神秘性は、混乱にして皮肉な物語をあまり意識させない。が、私たち日本人には解り得ないヨーロッパ気質〜宗教に辿り着かせてしまう。美しいのだが、なぜそう感じてしまうのか?が解らない。 だから好き。 動けない日々が続くと訳もなく不安になる。「不安」という心情は安らかにあらず、という意味なのでしょうから、そうすると実はちっとも不安じゃない自分がいる。とりあえず安らかだし・・・なんて。本当のところなにが不安なのかが解らないから不安という心情に至るのである。なにを言っているのか自分でも整理できない「混乱」な自分がいる。 説明不可能な情緒・・・それが不安。 先日、老人介護施設でかなりなアルツハイマーの老人とTVを見ていた。その爺さんはTV画面に映るイラク人によって人質になった日本人の目隠し状態を目にして「アウッ!」と唸って敬礼をした。 「どうしたんですか?」と私。 返事も無く、しばらくして泣き出したので、じっとその爺さんを見てた。 憶測だと何とでも解釈できるが、変わり身も早くその爺さんは目の前にあるご飯をガツガツ食べ始めてちょっと笑った。 2004/4/28 |