第16回
犬の話


私は小さい頃は犬が怖かった。

私が小さい頃というのは,まだ野良犬が町のそこらじゅうにいた時代である。
自分より大きな犬がいつ襲ってくるかと思ってびくびくしていた。
しかし,1年生になって通い始めた小学校の校庭の隣に民家があって,その庭に犬がいた。
いつも小学生が校庭で遊んでいるのを羨ましげに見ていた。私としては金網があって安心だったので,毎日その犬を観察していた。

驚いたことに,そのおかげで犬がだんだん怖くなくなった。

犬は心が通じるとよく言うが,実際テレパシーのようなものを持っているのだと私は信じている。
その校庭の隣の飼い犬がわたしに好意的だったために,それがきっと私の気持ちを癒してくれたのではないかと思う。

その後は犬ラッシュである。
うちの母は元来犬好きで,わたしが怖がらなくなったと見るや,あちこちの野良犬に手を出し,餌付けをして放し飼いにした。
昨今ならば大ひんしゅくの行為であろう。

しかし,のんびりした時代だったと思う。

うちの母親が野良犬にシロと名前をつければ,近所の人はその犬をシロと呼ぶ。クロと名前をつければ,近所の人もクロと呼ぶ。
犬のほうもわきまえたもので,シロと呼ばれれば嬉しそうにしっぽを振り,クロと呼ばれればワン!と返事をする。一度笑ってしまったのは,白い子犬に母が「ホワイトちゃん」というヘンな名前をつけたら,近所の人がみんな「ホワイトちゃん」と呼んでいたことだ。みんな,もうちょっと自分で考えようよ。

今はもう野良犬というものがいないので,あの時代だけの楽しみだったんだなぁ。

今ではペットショップで血統書つきの犬を買うしか手はないわけだが,時々近所を散歩している雑種犬(我が家では「ざったくん」と言う)を見ると,なんて犬らしい姿なのだろうと思ってしまう。
小さい頃はコロコロしてて本当にかわいくて,それに負けて飼い始めるのだが,大きくなってみると駄犬! あーーこういう犬だったんだねーーなんて,落胆もあるけど自分ちの犬はやっぱり「うちの子」で,世界一かわいいのだ。

犬を飼うときは絶対雑種がいいなぁ。

★そうそう,こんなやつ,こんなやつ★

2005/7/18


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